【映画評】ザ・ウォーク --- 渡 まち子

2016年01月24日 10:50

1974年。フランス人の大道芸人フィリップ・プティは、当時世界一の高さを誇ったワールド・トレード・センターのツインタワーの間をワイヤーロープ1本でつなぎ、命綱なしの空中闊歩に挑むことを決意する。プティは、仲間とともにNYに渡り、建設作業員や観光客を装って、何度も建築中のタワーに侵入し入念に計画を練っていった。1974年8月6日朝6時、決行の時を迎え、ワールド・トレード・センターの屋上へ向かう。だが、プティの行く手には、様々なトラブルが待ち受けていた…。

WTC・ツインタワーの間を綱渡りで渡ることに成功したフィリップ・プティの実話を3Dで描く「ザ・ウォーク」。このあまりにも有名な違法行為は、映像としては残されていないが、かつてドキュメンタリー映画「マン・オン・ワイヤー」で描かれている。とにかくプティという男は破天荒だ。高いものを見ると渡らずにはいられない。ワイヤー・ウォークに異常なまでに執着する。天才的なパフォーマーだが、不法侵入で逮捕歴は500回以上。一種のスリル・ジャンキーといえるが、彼は、誰も見たことがない景色の中でしか味わえない“生”を体感しようとしたのである。計画実行までは、スパイ映画さながらの綿密なリサーチで、そこはてんやわんやのにぎやかな世界。一方、ついにワイヤーの上に静かに立ったプティは、もはや悟りの境地だ。この対比が実に鮮やか。

もちろん映像も見事である。物語はプティの回想形式で進むので、彼の無事を知っているはずなのに、高さ、風、霧や空気までリアルに体感させる3Dの演出は、思わず手に汗を握った。主演のジョセフ・ゴードン=レヴィットは、実際に仏語と綱渡りを猛特訓したそうで、プティの“狂気”をユーモアを交えて好演している。前人未踏のパフォーマンスが終わった後、登場人物たちのその後が語られるが、何よりも印象に残るのは、プティだけが見た世界を生み出したWTC・ツインタワーが今はもう存在しないという事実。クレイジーな偉業の共犯者である巨大な塔のその後を思うとき、郷愁とともに、世界が変わってしまったことを感じるだろう。
【75点】
(原題「THE WALK」)
(アメリカ/ロバート・ゼメキス監督/ジョセフ・ゴードン=レヴィット、ベン・キングズレー、シャルロット・ルボン、他)
(ハラハラ度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年1月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。

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