今後どうなる?日本の温暖化対策(下)

2016年02月17日 00:41

GEPR編集部

)より続く。

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COP21の妥結を宣言するファビウス仏外相、オランド仏大統領(右)、潘基文国連事務総長。(国連提供)

座談会出席者
山地憲治(地球環境産業技術研究機構(RITE)研究所長)(司会)
有馬純(東京大学教授)
長谷川雅巳(日本経済団体連合会・環境本部統括主幹)

経済的手法よりイノベーションが重要

山地・12月22日に開催された政府の地球温暖化対策推進本部の会合で、本部長を務める安倍晋三首相が来春までの温対計画策定を指示しました。環境省の中央環境審議会と、経済産業省の産業構造審議会の合同会合で議論が始まっています。

長谷川・日本は温室効果ガスの排出量を30年度に13年度比26%削減という約束草案を提出しています。対策の積み上げによる目標設定こそが、約束案策定の基本的な考え方であり、基本的にはこの段階で示された対策の着実な実行が重要となります。ただ合同街道では、今後の対策としてカーボンプライス(炭素価格)の明示や、排出量取引に関心を向ける委員もいて、違和感を覚えました。

有馬・日本貿易振興機構(JETRO)のロンドン事務所長時代に、EU排出量取引制度(EU-ETS)の惨状を見てきました。初期の過大な無償の各国への排出量の割り当てや欧州経済危機で炭素価格が大きく低迷しています。19年から価格安定化のためのリザーブを導入予定です。しかし本来は量を規制する排出量取引制度に、価格コントロール機能を加えるのは論理矛盾です。制度設計上のゆがみが取引に問題を生み、その対応でさらなるゆがみを加えているように思えます。炭素価格を示すのは理論上適切な考えでしょうが、それを経済活動の中に組み込むには、さまざまな問題が起きます。

山地・炭素価格の問題は25年ほど前に研究を始めました。机上の理論では排出量取引などは、適切で美しく見えるでしょうが、現実の政策では問題が起こりがちです。制度づくりは慎重に検討するべきでしょう。

有馬・気候変動政策で、一国、一地域の制度の域外適用は実際には難しいものです。例えばある国が炭素税を導入した場合に、国際競争力上の公平性を期するには、国境調整措置が必要です。しかし輸入品の炭素府有料の計算は難しく、他国から報復措置を受ければ、貿易戦争が起こるかもしれません。各国とも温暖化だけが政策上、重要なテーマではないのです。

長谷川・温暖化対策には排出量取引制度や炭素税といった明示的な炭素の価格付け政策もあれば、一方で規制は補助金、自主行動計画という手法もあり、各国が事情に応じて適切な手法を採用すべきです。日本では産業界の主体的な取り組みが成果を上げています。

山地・イノベーション重視というのがCOP21で打ち出されたのだから、その方向で日本も貢献できないのでしょうか。

有馬・15年10月末に、枠組み条約事務局が現時点で各国の約束草案の合計と2度目標との間に150億トンのCO2ギャップがあると報告しました。これは中国の排出量の1.5個分と巨大な量です。2度目標の達成には、ここからさらに排出量を下げなければなりません。

これは今のエネルギー生産、消費の形を抜本的に変え、技術革新なしには成り立たない話で、技術活用にさらに関心が向くでしょう。ただし、どのような技術が出てくるかは不透明です。

日本は技術をめぐる国際会議イノベーション・クールアースフォーラム(ICEF)を主導し、国際的に技術面で産業界に強みがあります。空虚な理念先行型の目標追求より、長期の削減のための技術支援やイノベーションの環境整備が必要です。

長谷川・イノベーションによる温暖化の解決は日本の経済界が主張してきたことであり、経済界の利益、日本国民の利益につながります。日本だけが突出して排出削減を負担しても、経済を痛めてしまうのみならず、地球規模で長期削減するための研究開発の原子が奪われることになりかねません。

原発再稼働の着実な実施を

山地・ところが今、日本は原発が止まり、停さらにエネルギーシステム改革が行われています。温暖化政策との関係をどう見ますか。

長谷川・原子力の活用では現政権で、安全性を確認された原発の再稼動が進められており、原子力の活用は温暖化の面でも必要です。その姿勢をぶれずに進めてもらいたいです。ただし再稼動の安全審査に時間がかかっていたり、40年廃炉ルールがどう運用されるか不透明であったり、またリプレイスの方針が明確に打ち出されていなかったりといった課題もあります。

また環境アセスメントの手続きの中で、環境省が頻繁に石炭火力の新建設に疑問を表明しています。地球規模の課題であるCO2と、個別の発電所を対象とするアセスでの対応を両立させるのは無理のあることでしょう。石炭については、電力業界によるしん電力を含めた新しい枠組みでの取り組みを尊重するべきです。

有馬・原子力を排除する一方で、再生可能エネルギーを最大限導入すれば野心的な排出削減と経済発展が両立可能という、知的に不正直な議論があります。これは経済への負担や実現可能性がまったく検証されていません。温暖化を考える際に、好む、好まざるに関わらず、原子力の問題には向き合わなければなりません。政府は再稼動に向けて地元への働きかけを強め、日本の目標達成のためには、再稼動が不可欠だと国民に説明すべきです。原子力は今後リプレイスも必要になります。

環境省が原子力発電所の再稼動の問題に目を背け、石炭火力だけを問題するのもおかしいでしょう。原発再稼動の見通しが不透明なことが石炭火力の新設計画が増える背景にあります。石炭火力をベースロード電源おして同組み込むか、幅広い視点での検討が必要です。

山地・電力システム改革で初期投資が巨額になり、バックエンドコストがかかる原子力の扱いは難しくなります。S+3E(安全、経済性、環境、エネルギーセキュリティ)をシステム改革の中で実現するには、石炭についてはアセス強化で新設を抑制するより、高効率のものに置き換えるのが本筋だと思います。原子力も、リプレイス、新増設していく事業環境整備ができれば、石炭も一定程度に収まっていくことが望めます。

有馬・英国の長期固定価格買い取り制度(CDF)のように将来の価格を保障するなどの対策がないと、自由化の中で原子力の新設は進まないでしょう。原子力は政治的には難しい問題ですが、これを直視しないと温暖化対策は成り立ちません。

長谷川・エネルギーミックスに対応したゼロエミッションの電源比率を確保するために、経産省はエネルギー供給構造高度化法を活用する方針です。ただし規制によりゼロエミッション電源への需要を短期的に刺激しても、原子力の立地が進むわけではありません。直接的な立地推進策が必要でしょう。

山地・エネルギーシステム改革の議論で心配なのが、自由化や市場取引がすべてを解決するような意見があることです。そして温暖化政策でも机上のアイデアを現実にして、あまりうまくいかない例があり、炭素価格などがその好例です。理論やアイデアは大切ですが、市場原理主義といった考えが広がっては困ります。

必要な草の根運動

山地・最後に、政府、社会への提言をお願いします。

長谷川・国民運動の問題があります。安倍首相は地球温暖化対策推進本部の会議で、国民意識を高める取り組みの実施を支持しました。温室効果ガスの30年までの26%削減には家庭部門の取り組みが不可欠であり、草の根の活動の強化は望ましいことです。

山地・08年の洞爺湖サミット前後は、日本で温暖化問題の関心が高まりました。ただしその後は、日本が抱えるさまざまな問題、さらに11年の東日本大震災や東京電力福島第一原発事故などがあり、注目度が下がりました。しかし今後は再び注目されていくのではないでしょうか。日本でも異常気象の頻度が上がっている実感があります。

有馬・国民的な関心の高まりは必要ですが、エネルギーや環境問題では、その多面性への理解が不可欠です。これまでも、「反原発」とか「電力が足りていればいい」という単純な主張に、エネルギー政策、温暖化政策が影響を受けてしまった面があります。現実を直視し、実現可能な政策論をさまざまな立場で議論を重ねてほしいと思います。

山地・原子力をめぐる恐怖感も一段落し、ようやく落ち着いてエネルギー問題、そして裏表一体の温暖化問題の政策論を語れる状況になってきたと思います。また経済界との連携も京都議定書の時より強まり、技術力など日本の強みと温暖化政策を結びつける動きも活発化しています。温暖化に関する取り組みを前向きに行い、地球環境への貢献、そして日本経済への利益の双方を追求できる状況になりつつあるのではないでしょうか。COP21は新しい始まりになるでしょう。

山地憲治(やまじ・けんじ) 1977年東京大学大学院修了。工学博士。同年、電力中央研究所入所、米国電力研究所客員研究員、電中研エネルギー研究室長などを経て94年東京大学教授。2010年より現職。

有馬純(ありま・じゅん)東京大学教授。1982年東京大学経済学部卒。同年通商産業省(現経済産業省)入省。交渉官などとしてCOPに12回参加。2011年から15年までJETROロンドン事務所長。同年8月より現職。

長谷川雅巳(はせがわ・まさみ)日本経済団体連合会・環境本部統括主幹。1992年早稲田大学法学部卒。同年経団連事務局入局。国際経済部、経済本部、米国留学(法学収支)、内閣府出向などを経て07年より環境本部勤務。15年4月より現職。

(この記事はGEPRの編集者石井孝明が取材し、エネルギーフォーラム2月号に掲載した原稿を同誌の許可を得て転載した。許諾いただいた関係者の皆さまに感謝を申し上げる)

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