AO入試は日本の国際競争力を低下させる(2)--- 平 勇輝

2016年02月18日 06:00

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■ AO入試専門塾で横行する不正行為
AO入試の更なる問題点は、AO入試に特化した専門塾が現れ始めたことです。勉強方法を教わる一般的な学習塾とは異なり、AO入試専門塾は志望動機書の書き方や面接の対応方法を教えます。パターン化された書き方や口頭質問の返し方を教わることで、AO入試のためだけの知識を貯めこんでいくという訳です。なかにはお金を払って志望動機書を代筆してもらう、専門塾の講師が別に運営するNPO団体に名前だけ所属することでボランティア活動に従事したという虚偽の実績を作り上げるなど、信じられないような不正行為を行うケースも少なくありません。面接に至っては、グループ面接の際に同じAO入試専門塾に通う生徒同士で予めシナリオを作り上げておくなどといった口裏合わせも常套手段のひとつとして用いられています。

こうした不正行為を大学側が見抜くためには大変な労力が必要です。もっとも、大学側も然程受験生らによる不正行為を気にしていないのかもしれません。様々な大学で今後拡大が予定されているAO入試ですが、不正行為を働いた方が合格しやすい制度である以上、受験生本人や彼らを大学に送り出すことで利益を得る専門塾、青田刈りをすることで早めに学生を確保できる大学のどの立場にいるどの人たちにとっても不正行為をしないメリットがあまりありません。

また、一般入試枠を殆ど増やしていないにも拘らず、AO入試に固執する理由のひとつに大学側の偏差値操作の意図が見え隠れしています。一般入試枠の競争率を極端に高い状態にしておけば、学科試験突破に必要な偏差値は自ずと高くなります。偏差値主義な日本の教育現場において、高い偏差値の大学に行くことは良いことなので、一般入試枠を増やさないことは、大学にとっても高評価を維持でき、AO入試受験者にとっても受けてもいない学科試験が難しいことで入学後の嬉しさが増えるという訳です。

AO入試は、比較的新しい形態の入試制度であるが故に、従来の高校教師や学習塾講師が想定するカリキュラムでは対応できません。ところが、このニッチな市場に目をつけたのがAO入試専門塾で、その特殊性が故に一般的な学習塾とは比較できないほど高額な授業料を課している場合が殆どです。こうしたAO入試専門塾に所属する生徒が、概して親の所得水準が高く、私立高校出身で、地道な勉強を苦手とする、口だけ達者な場合が多いのは、入試制度自体が真面目に勉強をしてきた学生を過小評価してきたが故に起きている現象ともいえます。AO入試の拡充は、大学生たちの間での多様性を失わせ、経済的に恵まれない高校生や地道に勉強することが好きな学生の将来を潰してしまいかねません。

AO入試を突破する上で最も重要なのは、いかに華やかな実績を残し、それを雄弁に語れるかということに尽きます。そもそも、一般入試ではまず入学できない大学を目指しているケースが多いわけですから、自分自身に下駄を履かせて、本来の自分以上の嘘偽りの自分を演じ続けなければなりません。こうした中で得た偽りの自分やハリボテの知識、場当たり的な対策が、日本社会にどう役に立つといえるのでしょうか。 こうした視点で改めて小保方氏らをみると、新しい解釈の余地があると思えて仕方ありません。

■AO入試出身者で活躍している人たちは一般入試で合格できた
それでもなお、AO入試の支持者たちはこう言うでしょう。「AO入試出身者でも英語力抜群で、基礎学力も十分、将来の夢の実現に向けて頑張っている」。でもここに大きな矛盾があることに彼らは全く気づいていません――こうした活躍している学生こそ従来型の一般入試が評価してきた学生であるということを。

意欲や社交性、リーダーシップ力などといった曖昧な能力を学科試験だけでは十分に評価できないといった問題提起から始まったAO入試ですが、問題意識を持ちすぎることで本来あった良さが失われつつあります。AO入試出身者で、様々な分野で活躍の場を広げている人もたくさんいますが、こうした人達の多くは、基礎学力もあり、必ずしもAO入試でなければ合格できなかった訳ではなく、大学で取り組みたいことが明確にあるが故に一足先に受験生活を終えられるAO入試を選んだだけに過ぎません。AO入試出身者の方が大学進学後の学力や意欲が高いといった反論がいかに的はずれなものであるかということを、AO入試推進者は身にしみて理解する必要があります。

大学とは、勉強をする場所であって、あるのかないのか分からない細胞をあると叫ぶ場所でも、小学生になりすまして政治活動をする場所でもありません。

現行の受験生本人の学力を無視したAO入試制度では、日本の未来は暗いままです。仮に、AO入試本来の目的に沿った形で日本の大学入試制度を改めるとすれば、それこそ一般入試とAO入試という区分を廃止して、学力と学力以外の能力を同時に測ることのできる、学科試験+AO入試という形が最適解なのではないでしょうか。

平 勇輝(たいらゆうき)・ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校法学部犯罪社会学部所属、ロンドン大学キングス・カレッジ校国際安全保障研究センター非常勤研究員

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