■問題点の多いAO入試
STAP細胞問題の当事者で、手記「あの日」を出版した小保方晴子氏。「どうして解散するんですか?」と衆院解散総選挙を疑問視した小学校4年生になりすましたことで、安倍首相に批難された青木大和氏。社会的にも大きな話題になった両者ですが、他にも共通しているのは、どちらもAO入試出身者であることです。AO入試は、欧米型の入試制度を意識した比較的新しい入試制度として、現在では殆ど全ての国公私立大学で導入されており、先日、早稲田大学は2016年度入試よりAO入試での採用枠を全体の60%近くまで段階的に増やすことを発表しました。
結論を先に述べてしまいますが、現行制度のままAO入試を広げることは日本の国際競争力を著しく下げる非常に大きな社会的リスクをもたらす危険性があります。
■AO入試が導入された背景
従来型の一般入試とは全く異なり、基本的にペーパーテストでの学力判定を行わないことを特徴とするAO入試。学科試験では測ることのできない受験者本人の社交力やリーダーシップ力などの様々なスキルを、内申書や志望動機書、面接や小論文などによって多角的に評価し、合格者を選抜するというものです。こう書けば聞こえは良いですが、実態は、大学全入時代を受けた受験者の青田刈りと一般入試の偏差値操作を目的とした入試制度で、学科試験を課さないが故に様々な弊害が出てきています。
AO入試が様々な大学で入試制度として導入された背景には、かねてより問題視されていた「学力偏重主義」が要因のひとつとして挙げられます。この対応策として、学力以外の能力を伸ばす目的で導入された「ゆとり教育」という新たな制度のもとで後期中等教育課程を修了した高校生たちの受け皿として存在するのが「AO入試」という訳です。
いわゆる「つめこみ教育」への反省から生まれたAO入試ですが、現行制度では受験生本人の学力を正確に測れないため 、本来は合格できるはずのないレベルに合っていない大学に進学できてしまうケースが続出しています。学力以外の能力も多角的に評価するはずのAO入試を突破した学生の中には、「常用漢字が書けない」「高校1年生レベルの数学問題が解けない」「全く英語力がない」などといった大学生としての基本的な学力すら欠ける場合が少なくありません。これは、受験者本人の総合的な学力を客観的に測る参考資料が高校からの内申書だけだからです。
■欧米型のAO入試と日本のAO入試は大違い
仮に、偏差値40程度でNPO団体を通した政治活動を行っていたA君となんら特徴のない偏差値65の真面目なB君がいたとします。ともに偏差値65程度の大学を目指しA君はAO入試でB君は一般入試で同じ大学の入学試験を受けましたが、結果はB君の不合格発表を待たずしてA君が早々に合格を決めてしまいます。基礎学力のないA君は大学の講義の内容が全く理解できず、1年目の夏休みを待たずして大学を中退してしまいました。AO入試出身者の大学中退率が非常に高い理由のひとつとして、受験生たちの致命的な学力不足を挙げられずにはいられません。また、AO入試の入試日は、基本的に、一般入試よりも数ヶ月から半年以上前倒しで行われるため、合格発表時期も極端に早く、合格発表後の急激な学力低下に拍車をかけています。
とはいえ、AO入試それ自体が問題であるという訳ではなく、ガリ勉だけが名門大学に行くことも正しい大学教育だとは言えません。結局のところ、現行のAO入試の最大の問題点は、大学が独自に学科試験を課して公平な学力評価を行っていないという1点に集約できます。
欧米型の入試制度を参考にしたとされるAO入試ですが、欧米では日本でいうところのセンター試験のような統一学力テストの点数の提出が義務付けられている場合が殆どで、難関大学では9割近い点数を叩き出す必要があります。こうしたなかで欧米の大学の間でボランティアなどの課外活動が重視される理由は、十分な学力と意欲的な姿勢を兼ね備えたバランスの良い学生を採用するためであり、日本のような学力を無視したAO入試とは本質的に異なります。
中国や韓国などで度々報じられる過度な受験戦争の様子ですが、基本的な学力を欠く大学生を量産するAO入試の更なる拡充は、日本の国際競争力を著しく低下させる危険性が高く、制度改革を推し進める必要があります。そもそも従来型の受験は、非常に辛いもので、地道な勉強に日々取り組む必要があるものです。こうした経験を通して培った忍耐力や目標を実現させる能力といったスキルこそ、今後更に競争が過激化する国際社会において必要とさせる人材ではないでしょうか。
中途半端なボランティア活動や適当な志望動機書を誇らしげに掲げて大学進学を決める人が今後増えていくとすれば、それは暗い未来への片道切符であると言わざるを得ません。
(2)に続く
平 勇輝(たいらゆうき)・ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校法学部犯罪社会学部所属、ロンドン大学キングス・カレッジ校国際安全保障研究センター非常勤研究員