丸山「奴隷」発言が問題なら、新聞社は全滅では?

2016年02月20日 18:15

■人種差別「的」って何?
まずはこちらをお読みいただきたい。

〈最初の黒人奴隷が北米に運ばれて4世紀、同じアフリカ系の血を引く政治家が、とうとう米国の頂に手をかけた〉

2008年8月30日、朝日新聞の天声人語の一文だ

2月17日、憲法調査委員会で自民党の丸山議員が「黒人・奴隷が大統領に」と発言したとして「失言騒ぎ」に発展している。18日の衆院予算委員会では、民主党・神山洋介議員が丸山議員に「あまりにもひどい発言だ」と発言。野党(民主、社民、生活)は議員辞職勧告決議案を参院に提出し、丸山議員は審査会幹事と委員を辞任した(議員辞職は否定)。

だが一連の記事や野党の発言を読んでも、丸山発言の何を問題にしているのか分からない。


〈「米は黒人が大統領。これ奴隷」 参院憲法審で自民・丸山氏 「意図するところと違う」陳謝〉という見出しの2月18日付の朝日の記事で、経過説明以外に朝日が書いているのは〈オバマ米大統領は、アフリカ系(黒人)初の大統領だが、ケニアから米国に留学した黒人の父と白人の母との間に生まれており、奴隷の子孫ではない〉という一文のみ。さらに翌日の記事でようやく「人種差別にあたる恐れ」と書いた。他紙も「人種差別的」「人種差別的響き」などとしている。

丸山議員の発言は人種差別に当たるのか。発言の全体を見てみよう。

〈例えば今、アメリカは黒人が大統領になっているんですよ。黒人の血を引くね。これは奴隷ですよ。はっきり言って。リンカーンが奴隷解放をやったと。でも、公民権も何もない。マーティン・ルーサー・キング(牧師)が出て、公民権運動の中で公民権が与えられた。でもですね、まさか、アメリカの建国、当初の時代に、黒人・奴隷がアメリカの大統領になるとは考えもしない。これだけのですね、ダイナミックの変革をしていく国なんです。〉

ハフィントンポストより

これまでにも嫌というほど繰り返されて来たことだが、この文意を「オバマ大統領は奴隷」とは要約できない。話し言葉だから文字に起こしてみれば確かに言葉を補う必要のある部分はあろう。しかし「文意」そのものは、「『奴隷とされてきた黒人』にルーツを持つオバマ氏が大統領になった」ということだ。

■新聞社は何と書いてきたのか?
「失言」「人権軽視」と新聞やテレビ報道は大きく扱っている。朝日新聞は「失言」を報じる記事に「オバマ大統領は奴隷の子孫ではない」と書き添えているが、冒頭の記事以外にも、「奴隷にされてきた黒人」の血を引くオバマ大統領のルーツや、黒人解放運動に邁進したマーチン・ルーサー・キング牧師を引き合いに出した記事を何度も掲載している。

〈奴隷制度という過去を持ち人種問題を抱える米国が、奴隷の子孫ではないものの、アフリカ系(黒人)の大統領を選んだ歴史的な選挙となった〉(2008年11月6日、小村田義之)

〈無数のアフリカ系(黒人)有権者が、泣いた。拳を突き上げ、友と抱き合い、芝生にしゃがみ込んで。米イリノイ州シカゴで四日夜、大統領選に勝利したオバマ氏が舞台に姿を見せた瞬間、いったいどれだけの涙が流れただろう。(中略)奴隷がアフリカから北米に「輸入」されて389年。リンカーン大統領の奴隷解放宣言から145年。そして、キング牧師の演説から45年。アフリカ系の政治家が、初めて頂点に立つ。米国社会は、変わったのか〉(2008年11月7日、真鍋弘樹)

〈黒人初の大統領は就任演説で述べた。奴隷制以来の過酷な差別を思えば、「大統領になったことが最大の仕事」の声が上がるのもうなずける〉(2009年1月22日、天声人語)

〈米国の公民権運動の父、マーチン・ルーサー・キング牧師の像が今月、ワシントンのポトマック河畔に完成した。(中略)だが、その歴史の申し子といえるオバマ大統領の除幕演説は、控えめだった。「どんな勝利にも揺り戻しがある。ノーベル平和賞の受賞後も、牧師は批判を浴び続けた」。先人の苦難を振り返る語り口は、まるで就任後の自らを重ねて嘆くかのようだった〉(2011年10月31日、立野純二)

これらの記述と、丸山発言の言わんとしているところはほとんど同じではないだろうか。この記事を「オバマ大統領は奴隷」と要約するのがおかしいように、丸山発言をそう要約するのもおかしい。

ミシェル夫人に対する朝日の扱いはもっと直接的だ。

〈ミシェル・オバマ夫人はどんな女性、ファーストレディーなのか。黒人奴隷の子孫、夫の元上司(インターンだったバラクを指導した)、夫にゴミ出しをさせ、身長180センチでファッション誌も注目〉(2015年3月20日、アメリカ総局長・山脇岳志)

この点では他紙も負けてはいない。

〈4世代を経て奴隷の子孫がホワイトハウスへ――。バラク・オバマ氏(47)が黒人初の米大統領に就任する20日、夫人のミシェルさん(45)もファーストレディーとして米国に新たな歴史を刻む〉(2009年1月20日、中日新聞夕刊、加藤美喜)

〈黒人奴隷が強制労働で建てたホワイトハウスに、奴隷の子孫であるミシェル夫人や子供たちとともに住む〉(2009年1月22日、毎日新聞社説)

■自身の記事を振り返ってみよ
仮に丸山氏の発言を「オバマ大統領を(事実に反して)あたかも奴隷だった、あるいはその子孫であったかのように述べたのが人権軽視に当たる」「あえて属性を持ち出すのがおかしい」というなら、オバマ大統領を語る際に何かといえば「黒人」「奴隷」「差別の歴史」と属性を付け加えた記事を書いた新聞社も問題となり、「ほぼ全滅」となるのではないか。

〈むちによって、剣によって流された血を通じ、私たちは、自由と平等の原則のもとに築かれた結束は、半分が奴隷で半分が自由という状態では生き残れないことを学びました〉(朝日新聞、2013年2月1日、中井大助)

これはオバマ氏の大統領が二度目の就任演説を行った際の文言だ。オバマ大統領は自らのルーツやアメリカの歴史と切り離すことのできない黒人や奴隷が体験してきた過去を自ら背負い、そしてその負の遺産を少しずつ清算し、ついに大統領まで出したアメリカという国家に誇りを持っているだろう。

それに対して、話し言葉の言葉尻をとらえ、揚げ足取りをして国益を失わせる日本のメディア、あるいは野党の志の低さには呆れるほかない。

梶井彩子
ライターとして雑誌などに寄稿。
@ayako_kajii

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