ご注意!心の国家資格「公認心理師」は細目未定です

 “「公認心理師」という資格制度をはじめます!”を謳う法律が発布されました
 横浜で開業する臨床心理士、北川清一郎氏がアゴラにご寄稿なさったとおり、2015年9月16日に初の心理職の国家資格である公認心理師の法案が公布されました。また、2016年3月4日付で関連する政令の一部も公表されました。資格制度の運営に向けて関係者は着々と動いています。

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 “詳しいことは追って説明します”状態です
 しかし、まだ実質的な運営は始まっていません。運営に向けた細部も検討が進んでいる途中です。資格制度を始めることを国が謳いましたが、詳しいことはまだ国民には明かされていない状態です。

 詳しいこともわからない中で“取得対策”を謳う人たちがいる?
 その中で、悪い意味でいち早く「公認心理師になる方法」を謳う人々が現れました。中には「今がチャンス」を謳うものもあるようです。詳しいことが公表されていない中でなぜチャンスを謳えるのか疑問です。「自分も取れるかも!」と期待する人々が心を迷わされないかが心配です。

 期待を寄せるのはわかりますが…
 事情は後で説明しますが、他の先進国が心の国家資格を整備して国民の心のケアを充実させていた中で、日本は「心のケア発展途上国」の状態が続いていました。文部科学省と学術団体が作った公益法人認定の「臨床心理士」が懸命に活動していましたが、心のケアの業務を支える法体系がありませんでした。その中で法体系に支えられた心の国家資格が出来たわけですから、様々な期待が寄せられています。
 しかし、その期待の一つには注意しなければならないものがあります。それは、「臨床心理士よりも資格取得が容易になるかもしれない」というものです。臨床心理士は大学院修了で受験資格を得られる資格です。一方で公認心理師は大学学部卒で取得できる道が制定されていますので,臨床心理士と比べると容易に見えるのかもしれません。

 今は公式発表を待ちましょう!
 しかし、実質的には大学卒業後の実務経験を課しています。これは言い換えれば「大学で勉強しただけで務まる仕事ではない」と謳っているのに近いです。有識者の間でも難易度は高いものになると予想されています。具体的なことも不明な中で、今の時点で資格取得や取得対策を考えるのは拙速ではないかと思われます。
 今現在,信頼できる情報はこちらにまとめられています。この情報のように国家資格なので公的なリソースに基づいた情報を得るように心がけてください。
http://www.ccppn.net/news/

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 公認心理師への期待と課題
 心の国家資格は30年前、いえ40年近く前から必要性が訴えられていました。しかし、医師法等の関連する国家資格の法体系との整合性をどう取るか…といった問題を軸に、資格化の過程が複雑化しました。
 さらに、日本では「文学部」を中心にあたかも思想のように心理学が「輸入された」という歴史的な経緯も事態をややこしくしました。実務を支える学問すなわち「実学」として心理学をとらえる意識が育ちにくかったのです。このことも事態の複雑化に輪をかけました。
 今でも50代以上の方,特に実業界の方には心理学を科学ではなく「思想≒答えのない世界」と誤解している方を散見します。心理学は自然科学と社会科学、そして人文科学の融合領域ですので、このような誤解が目立つことによる社会的な損失は計り知れません。
 なぜなら国家資格は国民の利益に役立つ実学的な職種に限られています。なので、心理学が思想と思われている以上、心理学に基づいた実務家も「思想家」と誤解を受けがちでした。結果的に国家資格化が遅れた経緯もあったと筆者は感じています。
 しかし、公認心理師は思想家ではなく科学に基づいた実務家としても機能するように検討されています。もちろん思想をないがしろにしてはいけませんが、心理学は本来的には「科学」です。心理職や心理学者が社会から科学者とみなされないのはおかしな話です。公認心理師の登場で「心理学≒思想」という社会的な誤解が軽減することを個人的には期待します。
 心理学の正しい姿が国民に理解されると、心理学が国民のために出来ることも広がるでしょう。誤解を解くのは難しいものですが、公認心理師制度の展開に伴って心理学が広く活用されることを願います。
【執筆者】
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杉山崇
神奈川大学教授
臨床心理士、1級キャリアコンサルティング技能士
公益社団法人日本心理学会代議員
精神科、教育委員会、企業メンタルヘルス事業所などで20年余り心理職を務める。
研究者としてはうつ病の対人関係と心理療法の研究で国費助成を20年弱得ている。
「心理学でハッピーになるお手伝い」を目指して、yahooニュース,mocosuku womenなどでも「使える心理学」を配信中!

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