これまでの懸念事項であった公認心理師法案が成立いたしました。
簡単に歴史を振り返ると、1960年代から臨床心理職の資格化の必要性が認識されるようになってきました。しかし、資格化することへの反対意見もあり、かつ当時の大学紛争・学園紛争のさなかということもあり、かなり紛糾したと聞いております。
そして、資格を作るグループと作らないグループに分裂し、前者は日本心理臨床学会を作り、資格化を進めていきました。そうして、1988年になって臨床心理士資格ができました。ただ、国家資格ではなく、民間資格という形態でした。
しかし、民間資格ではあったとしても、それなりに知名度を高めました。活躍する分野も広がり、医療・教育・福祉・司法・産業・開業などで多数の臨床心理士が仕事をするようになりました。中でも教育分野においてはスクールカウンセラーとしてかなりの割合の臨床心理士が入るようになっていきました。
臨床心理士の人数も徐々に増加し、近年では30000人にもなっているようです。
反面で、民間資格であることのデメリットは数々あり、国家資格化に向けての活動は行っていました。とくに河合隼雄先生がトップにたち、文科省や厚労省といった行政府の中で活躍することで、臨床心理士が国家資格化する良い線まで行ったことがあると聞いたことがあります。が、結果は至りませんでした。
同時並行的に、医療の場を基点とするグループにより医療心理師を作り、臨床心理士と同時に国家資格化しようという動きもかつてはありました。俗に二資格一法案といわれるものでした。これは国会上程までいきましたが、当時の衆院解散により、流れました。
時を経て、2009年ごろから、心理職の統一資格を作る動きが徐々に出てきました。2010年にはまとまった統一見解が作成され、確かこの時に公認心理師という名称が表に出てきたと記憶しています。
臨床心理士をそのまま国家資格にするのではなく、公認心理師という新しい資格を作り、それを国家資格にする、ということです。
この公認心理師は少し紆余曲折ありましたが、臨床心理士のように大学院に行かずとも、ある一定の現場実習があれば取得することができます。また医療領域外であったとしても医師の指示の元で業務をしなければならない、などの特徴があります。
このため、一部の臨床心理士からは、臨床家としての専門性が危ぶまれるとの意見があったりします。
確かに私もそのような危惧はあります。しかし、これまで日本にはカウンセラーや心理臨床家の民間資格が多数あり、有象無象となってしまっているのが現状です。それによって適切な相談場所にたどり着けないクライアントがいることも事実です。さらには国家資格がないことで国や公共団体の公の事業に参加しにくいという事情もあります。
このようなところから公認心理師が決してパーフェクトな資格ではないと思うものの、今よりも現状をよりよくするためには、公認心理師の資格創設と国家資格化が必要と私は考えています。
未来のことは空想することしかできませんし、確定したことは何も言えませんが、徐々にこの公認心理師がカウンセラーのスタンダードになっていくのではないかと思われます。そして、公認心理師の資格さえ持てばそれで安泰というよりも、さらなる上位資格や専門資格により専門分化されていくことも考えられます。
いずれにせよ、ユーザーであるクライアントさんや患者さんにとっては、カウンセラーを選ぶ判断基準が明確になり、より援助を求めるためのアクセスがしやすくなることを願っています。
北川清一郎
心理オフィスK代表 臨床心理士
http://s-office-k.com