TPP知財方針を決定する場にて --- 中村 伊知哉

知的財産戦略本部会合@官邸。
TPPの知財分野への対応について政府方針を決定する場。総理以下閣僚と民間委員とが意見交換しました。報告致します。

冒頭、安倍首相が「著作権については二次創作が萎縮しないよう対応する」と発言。のっけからのトップ発言で、政府の本気度を感じました。

続いて、島尻知財担当大臣、馳文科大臣も揃って冒頭に「著作権については二次創作が萎縮しないよう対応する」と発言されました。本件がTPP知財の最重要課題であることを共有しました。

首相はじめ3大臣の発言に、著作権の非親告罪化を巡って、TPP交渉でいかに政府が苦心し、苦渋の決断をしたかが伺えます。国内制度の整備も十分に配意することを希望します。

島尻知財大臣は著作権法の措置に加え、コンテンツ海外展開策の強化、知財教育の推進、デジタル・ネットワーク時代の知財システムの検討について言及。これは知財本部の場で議論を進めます。

馳文科大臣は、海賊版対策や著作物利用円滑化についても言及。TPP合意を契機に、コンテンツ流通の促進策を進めてもらえることを期待します。

ぼくは以下のとおり発言しました。
「農業社会と工業社会では、土地や資源を持たざる国だった日本が、情報社会では知財を持てる国となるチャンスです。
TPP合意をきっかけに、日本の強みを活かす知財制度の整備と、クールジャパンを推進する政策とを合わせて講ずることが重要と考えます。

一方、TPPが想定する世界、人と人がコミュニケーションするという知財の世界は、次のステージに移ろうとしています。IoTやAIで人と機械、モノとモノがコミュニケーションする時代になると、知財の考え方が根本から問い直されます。産業構造も大きく変わる可能性があります。

日本の創造力と競争力を高めるための制度と産業基盤の整備に向けて、世界に先駆けて手を打つことが重要と考えます。以上よろしくお願い致します。」

松竹・迫本さんが「民間の山っ気を重視して市場メカニズムを働かせるよう、官民の役割分担をすべき」と指摘。迫本さんのこの意見は、何度繰り返してもらってもよい。特にコンテンツ政策では気をつけておくべき視点です。

KADOKAWA川上さんが「将来、著作権制度が崩壊する可能性について言及し、人工知能の発達で知財制度の必要性も問われる」との発言。官邸での会議にふさわしいコメントだと考えます。

TPP知財分野の対応は、著作権法の改正を文化庁が進めつつ、政府としては知財本部が全体を担当。さらに、TPP後の次世代の知財システムを知財本部で併せて検討することとしています。知財問題は新たな場面を迎えます。

国内でずっと議論してきたことが、TPPという国際政治でひっくり返る。国内制度は世界の枠組みの中で決まることが明白となりました。そして同時に、IoTやAIという従来の知財観ではとらえられない事態が進行しています。仕組みそのものを見直す時期です。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2016年3月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。