「イエスの復活」は何を意味するか

長谷川 良

27日はキリスト教会の最大行事、イエスの復活を祝う復活祭(英イースター)だ。イエスが2000年前に生誕した日を祝うクリスマスより、キリスト教会にとって重要な祭日だ。なぜか、以下、簡単に説明する(ユリウス暦を使用する東方教会では今年のイースターは5月1日)。

イエスの生誕の秘密は別として、イエスがユダヤ人だったことは間違いない(「イエスの父親はザカリアだった」2011年2月13日参考)。当時のユダヤ社会がイエスを救い主(キリスト、メシア)として迎え入れていたら、イエスは信仰の祖アブラハム、イサク、ヤコブの神を信じるユダヤ教を継承しただろう。そして、その教えはローマに伝わり、そこから世界各地に伝わっていっただろう。そうなれば、キリスト教は必要ではなく、生まれなかっただろう。

実際はどうだったか。イエスの生涯が記述されている新約聖書の共観福音書を読めば分かるように、イエスは当時のユダヤ人社会からは「悪魔のかしらべルゼブル」(マタイによる福音書」第12章)と受け取られ、モーセの5書の教えを破る異教者として中傷され、罵倒され、最後には十字架上で処刑された。

イエスの生涯について2つの異なった聖句が記述されている。旧約聖書の「イザヤ書」には、「王の王として君臨する」と予言した内容と、「人々から迫害され、捨てられる」という内容の2つだ。結果は、後者の預言が成就された。イエスは33歳の若さでユダヤ社会から捨てられ、十字架上で亡くなった。

そのイエスが3日後、復活して40日間、バラバラとなった弟子たちを呼び集め、イエスが誰だったかを悟らせた。そして昇天する。世界の最大宗教キリスト教が生まれた瞬間だ。繰り返すが、ユダヤ教指導者たちがイエスを救い主として迎え入れていたら、キリスト教は生まれてこなかったのだ。

ところで、その「復活」について、キリスト教会では2つの解釈がある。「肉体復活」と「霊的復活」だ。神は全知全能であり、死んだ人間を生き返らせる能力を有していると信じる教会は前者を支持する。一方、神は自身が創造した秩序を無視することはない。肉体復活はその自然の規律を破る。賢明な神はそのような無謀なことはしない。イエスは霊的に復活したのであって、肉体復活ではない、というのが後者だ。

新約聖書をみれば、イエスは復活後、時空を超えて弟子の前に現れている。肉体を持つ人間では出来ない。聖書の内容を偏見なく読めば、後者の霊的復活が前者より説得力がある。イエスの死後、今日まで多くの聖人、敬虔な信者の前にイエスは顕れたという証がキリスト教会には伝わっている。肉体復活では考えられない。

ローマ・カトリック教会は今年9月、修道女マザー・テレサ(1910~97年)の列聖式(聖人)を挙行する。テレサは1979年、修道会「神の愛の宣教者会」を創設し、貧者救済に一生を捧げた。その功績が認められ1979年のノーベル平和賞(1979年)を受賞し、死後は、前ローマ法王ヨハネ・パウロ2世の願いで2003年10月19日に列聖の前段階の列福(福者)されたことは良く知られている。

そのテレサも生前、イエスと会うことを願ってきた。テレサの死後、公表された書簡によれば、「祈っても祈ってもイエスに遇えない」と嘆いている個所所がある。テレサが願ったイエスは肉体復活したイエスではなかったことは自明だろう。霊的なイエスとの出会いだったはずだ。

いずれにしても、世界のキリスト教会はイエスの復活を祝い、イエスの神性を称える。多くのキリスト教会は、「イエスは十字架で人類の罪を背負って亡くなることで人類の罪を清算できる道を開いた」と信じている。
それでは、そのイエスを信じてきた信者で罪から完全に清算された人間が出てきただろうか。キリスト教神学を確立した聖パウロですら、「自分は罪の虜になっている」と告白している。イエスの十字架を信じながら、罪との葛藤を繰り返しているのがキリスト教信者たちの偽りのない姿だろう。

イエスの十字架処刑後、ユダヤ教から神の使命を継承したキリスト教会はイエスの十字架を神の計画と主張し、キリスト教会の正統性を強調する一方、「メシア殺害民族」と誹謗されたユダヤ民族の過失を結果的に隠蔽することになったわけだ。

敬虔なユダヤ教徒の中には21世紀を迎えた今日でも王の王として降臨されるキリストを待ち続けている人々がいる一方、キリスト教会は再臨主の肉体降臨の道を恣意的に妨げてきた。

復活祭を前に少々、厄介なテーマまで突っ込んでしまったが、イエスの復活の意義をもう一度考える契機となれば幸いだ。イエスの復活は人類に大きな希望を与えたことは間違いない。イエスに感謝しなければならない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年3月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。