熊本地震で「ヘイトデマ」を流す輩は去れ! --- 白岩 賢太

アゴラ
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町役場前に避難し、毛布にくるまって夜を明かす住民ら
=4月15日、熊本県益城町(中島信生撮影、©産経新聞)

「在日朝鮮人が熊本中の井戸に毒を入れて回っているというのは本当なのですか?」「熊本では朝鮮人の暴動に気をつけてください」「火事場泥棒を狙ってくる不届な国がすぐ近くにありますから」…。最大震度7という猛烈な揺れで多数の死傷者が出た熊本地震をめぐり、こんな心ないツイートがまたも飛び交った。
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もう真面目に書くのもバカらしいが、この人たちの頭の中は本当にどうなっているのか。今回の大震災に限らず、これまでも大きな災害が国内で起きるたびに、ネット上ではこうした悪質なデマが拡散した。いや、これはもうデマの域を超えた、紛うことなき「ヘイトスピーチ」である。 

「『朝鮮人が井戸に毒を!』って中学教科書レベルのネタやん。それに過剰に反応するやつはちょっと…w」。彼らにとっては「ネタ」なのかもしれないが、ちっとも面白くないし、「不謹慎」という言葉を使うことさえ腹立たしい。

 同じような「真に受ける方が悪い!」とでも言うような書き込みは他にも散見されたが、はっきり言って中学教科書レベルの知識があれば、彼らの言う「ネタ」程度のデマが関東大震災の朝鮮人迫害の悲劇につながったことは誰でも知っている。

2008年の第一次安倍政権下に、内閣府中央防災会議の専門調査会がまとめた報告書『1923関東大震災第2編』によれば、1923年9月1日に起きた関東大震災の死者約10万5千人のうち、1%~数%が軍や警察、市民による殺傷行為の犠牲となり、とりわけ震災直後に流れたデマに起因する朝鮮人への迫害が最も多かったという。

報告書では「自然災害がこれほどの規模で人為的な殺傷行為を誘発した例は日本の災害史上、他に確認できず、大規模災害時に発生した最悪の事態として、今後の防災活動においても念頭に置く必要がある」と指摘しており、当時の混乱した状況下で人々がデマに踊らされていく過程についても詳しく検証している。ご興味のある方は下記リンクをぜひご覧いただきたい。

■内閣府中央防災会議報告書『1923関東大震災第2編』第4章第一節「流言蜚語と都市」PDF

だが、ネット上では、歴史学的には定説となっている「朝鮮人迫害」を否定する言説も目立つ。当時の新聞記事の切り抜きなどを根拠に「記事にも書いてある通り、朝鮮人の暴動はデマではなく事実だった。だから迫害されても仕方がない」という短絡的なロジックが多いが、そもそも当時は軍も警察もデマに踊らされ、結果的に新聞がデマを煽るという、あってはならない過ちを犯したのである。

戦前を代表する保守派論客、徳富蘇峰は、震災から一カ月後の国民新聞に寄せたコラムの一文に次のような一節を添えている。

《今次の震災火災に際して、それと匹す可き一災は、流言飛語災であつた》

当時の人々の想像をはるかに超える未曽有の大災害だったとはいえ、人々がデマに踊らされ、殺傷行為を繰り返したことは「災害」に匹敵すると表現したのである。むろん、マスメディアが新聞しかなかった当時とは異なり、現代はありとあらゆる情報伝達手段が発達し、情報が拡散するスピードも当時とは比べものにならない。

一世紀前のように、悪質なデマの拡散によって人々が暴徒化し、殺傷行為を繰り返すような事態が起きることは、確かに想像しがたい。だが、大災害の混乱に乗じて特定の集団や民族をターゲットに誹謗中傷しデマを流す行為は、ネット時代が生み出した「人災」に等しく、許しがたい。

今回の熊本地震でも、デマを流し嬉々とした輩の多くは匿名の書き込みだった。ネット社会にはびこる病理とはいえ、面白半分にデマを流して他者を貶める行為がいかに愚かであるか、本当に気づいていないのだろうか。だとしたら、彼らはもう「ヘイト(憎悪表現)」という名の現代病に侵された救いようのない人々である。

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iRONNA編集長、白岩賢太
プロフィール;総合オピニオンサイト「iRONNA」編集長。1975年、岡山県生まれ。2001年、産経新聞社入社。京都総局、大阪社会部を経て、2014年10月から現職。社会部時代、連載企画「橋下徹研究」を担当し、橋下氏本人や関係者ら100人以上に取材した。

編集部より;この記事は、産経新聞社のオピニオンサイト「iRONNA」編集長、白岩賢太氏の2016年4月15日のエントリーを転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。