バラバラになる世界

このブログを何年も書いていると日本を愛している読者の熱い書きこみに嬉しくなることもしばしばです。愛国心とも言うのでしょうか?カナダでも全く同様で、カナダ人であることに強いプライドを持つ人々、そして、多くの移民を経て国籍を取得したカナダ人もいかに自分はカナダに来たことで人生が明るくなったか、楽しそうに話しだします。

NHLのホッケーの試合がカナダのチームとアメリカのチームとの戦いであれば、プレイ前の国歌斉唱で自陣チームを応援するファンがより声を張り上げて国歌を歌うところにそのプライドが現れています。

近年、経済提携や国家安全を理由に多くの国はアライアンス(同盟)を結んできました。EUやNAFTA、日米や米韓関係もそうでしょう。BRICSの一定の関係もありますし、特にロシアと中国も仲良しと見られています。中東は誰と誰がアライアンスか分かり難くなっていますが、シーア派、スンニ派を基本軸に様々な利害関係の中で一定のつながりを持っています。

私は近年の世界の動きをみているとこの世界の国々を繋ぐ線と線が複雑になり過ぎて一旦、御破算にしたがっているバイアスが出てきているように見えるのです。

そのバイアスが生まれたのは正にアメリカが発信源でありました。オバマ大統領による「世界の警官からの勇気ある撤退宣言」とG7からG20に引き上げたこの二つの大きな決定は表向き、心地よいサウンドに聴こえますが、実態としては世界を混とん化させる副作用を与えたとも言えます。

ではどんな副作用があったでしょうか?北アフリカの春以降、冴えない民主化転換国家やISの登場を許したのもアメリカの甘い外交が伏線としてあったでしょう。イランに対する制裁撤回はサウジとアメリカの関係を悪化させています。更にはアメリカとイスラエルの関係はオバマ大統領の時代には完全に冷え切っています。ウクライナに中途半端なちょっかいを出したこともありましたし、北朝鮮にこんな好き勝手やらせている背景もアメリカの弱さにあります。

それを受けた今回のアメリカ大統領選はアメリカの利益重視、つまり、アメリカに税金がもっと落ちるようにし、メキシコから不法労働者が来ないようにし、米軍の貢献にもっと金を出せと声高に叫んでみたり、ロシアと仲良くしたら絞めるからな、日本に囁いたりするわけです。

ところがこの「バラバラになる世界」はアメリカに刺激を受けたのか、世界のあちらこちらで好き勝手な動きが見て取れます。イギリスがEUからの離脱を問う国民投票が6月に迫りますが、結果がどうあれ、イギリス国民の中でこれだけの欲求不満が溜まっていることには大いに注目すべきでしょう。

更にアメリカとイギリスの関係が薄まっている点も気にしています。パナマ文書の直接的なターゲットはアメリカのイギリスへの嫌がらせのように見えるのも一つあるでしょう。なぜ、アメリカとイギリスは離反したのか、といえばAIIBがふと浮かんできます。中国が掲げるAIIBの指に一番に止まったのはイギリスでした。アメリカは相当憤慨したと思います。

イギリスはなぜ、そんな行動をしたのか、といえばアメリカと中国の冷えた関係、更に衰退するアメリカの10年後を想像し、中国にこそ次世代の世界の中心と思いこんだ節があるように見えるのです。しかし、中国にそんな力があるかといえば情報をコントロールし、真実が分からない世界から発せられるその話を鵜呑みにすれば素晴らしい将来があるように見えるのでしょうか?日本の書店で「中国には素晴らしい未来がある」という趣旨の本はただの一冊も見つけることはできません。それは「嫌中」ではなく、日本だから分かる中国の恐ろしさなのであります。

国家のアイデンティティの強さがアライアンスという我慢の域を超えた、これが私の指摘したいポイントです。

なぜ、我慢が出来なくなってきたか、これはやはり情報化時代が邪魔した気がします。国民レベルで高い情報を共有するようになると、ある日突然、とんでもない事態が発覚することがあります。かつてはこんなことはありませんでした。つまり、政府主導の支配力があったのです。ところが今は国民主導になったことでアライアンスに対する良し悪しを国民がボイスアウトする時代になったと言えます。

私は時折、民主主義の時代になった、と書かせていただいていますが、その趣旨とは国民一人一人が政府を監視する時代にになったとも言えないでしょうか?これは恐ろしいことで政府が何かやろうとしても国民レベルでああでもない、こうでもないと果てしない議論が起こり、政府は何も決定できなくなるのです。

例えばTPP、かなり難しいでしょう。日本の消費税再増税、これも難しいかもしれません。中国が今の体制を維持し続けるのも難しいし、北朝鮮も大きく変わるでしょう。昨年、タイのクーデターは国家を二分するほどの国民の間で激しい論戦がありました。ブラジルの大統領は国民の手により降ろされそうです。ミャンマーでアウンサンスーチー氏が影響力を駆使して国家再建を図りますが、私は女史の政策は失敗するとみています。

ニュースには世界不安という言葉が躍ります。この背景にはこのように国家が我儘になっていることが少なからずとも影響しているとみています。政治とは国民の声を束ねて一つの方向性を作り出すことでした。今、その政治は誰がどうやって動かしているのか、ここが不明瞭になっています。これがしっかり再確立しないと世界の不安はより一層深まってしまう気がいたします。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 5月16日付より