使用停止し死語にしたら
米大統領選で共和党のトランプ候補が、不勉強なのか口先だけなのか、乱暴な発言を乱発しています。トランプさんに噛みつかれる前に、日本側が使うのをやめるべきだ思う言葉遣いがあります。不正確だし、実態にそぐわず、むしろ誤解を生みかねない米軍への「思いやり予算」という表現です。無神経な言葉です。
1978年に金丸信防衛庁長官が、在日米軍基地で働く日本人従業員の給与の一部を日本側の負担とすると、決めたことから使われ始めました。いまでは基地職員の労務費、基地内の光熱費、水道費、訓練移転費、施設建設費など、いわゆる「思いやり予算」は年間、総額で最近は1850億円、累計で3兆円を超えます。この3月には、5年分一括で9500億円の予算案が国会で承認されました。
「思いやり」とは、親の子への思いやり、教師の生徒に対する思いやりなど、目上の者が目下の者に対して使う言葉でしょう。米軍に寄りかかっていたような時代に、米軍に対して「思いやり」とはねえ。円高・ドル安で米側の負担(ドル建て)が増えたことに配慮したそうです。金丸氏が勘違いして誤用しただけのならともかく、財務省、防衛省などは今もって、「いわゆる思いやり予算」など言い続けています。
新聞も見出しにする無神経さ
日米安保体制の堅持を主張する読売新聞ばかりでなく、安保批判派の朝日新聞までが「思いやり予算」という表現を使うのは不思議ですね。正式には「在日米軍駐留経費(3700億円)のうち特別地位協定に基づく予算」とかいうことになるのでしょうか。長ったらしいので俗称の「思いやり予算」と表現し、新聞も見出しにとっているのでしょう。
「思いやり予算」は、「Omoiyari yosan」という英語表記にもなっています。東日本大震災の時、米軍が災害救助支援に上陸した「トモダチ」作戦みたいな感じなのでしょう。公式表記は「Host Nation Support」で、直訳すれば、「駐留国受け入れ支援か接受国支援」になるようですね。日本側が使う場合は「接受国支援」ないし「接受国協力費」でいいと思いますね。
接受国協力費と改称しては
日本政府でも前原外相(2011年)が「日本の安保、外交において必要な経費は負担すべきだ。今後はHost Nation Supportを使用したい」と提案しました。まもなく民主党政権が自滅してしまいましたから、せっかくの提案が徹底されないまま、「思いやり予算」が使われ続けている始末です。
トランプさんの乱暴な発言を復習しますと、「米国に守ってもらっている日本は米軍の駐留経費を全額負担すべきだ」、「米国は以前ほど裕福ではない。なぜ日本は100%負担ではないのか」、「米国は世界の警察官ではない。日韓の核兵器の保有はありうる」などなど。トランプさんが大統領に当選しなくても、こうした発言は米国民の空気を反映している部分はあるでしょう。大統領選後が要注意ですね。
5年分の「思いやり予算」案を国会で承認した際に、安倍首相がなぜ「今後、思いやりという表現は使わない」と言わなかったのでしょうか。不思議ですね。タイミングをみて改称し、日本の経費負担の実態を正しく理解してもらう機会にしたらいいと思います。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2016年5月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。