安倍さんは財政も金融も破壊する気か

2016年06月02日 18:20

どこかで聞いた「新しい判断」

安倍首相が10%への消費税引き上げを、19年10月まで延期すると表明しました。昨日の記者会見で「再延期はこれまでの約束と異なる新しい判断だ」と語り、参院選で信を問いたいと述べました。「はてな、新しい判断とは、どこかで聞いたことあるような言葉だな」。思い出しました。2年ほど前の話です。

集団的自衛権の行使を限定的に容認するとの閣議決定が2014年夏になされました。政権は憲法9条の「新たな憲法解釈」、あるいは「新たな政府見解」と表現しました。読売新聞は社説でも「新たな政府見解」と書き、逆に朝日新聞は「9条を崩す解釈改憲」と批判しました。本来なら憲法の条文を書き換えて、疑問の余地なく、自衛権の枠を広げるべきなのに、その道が閉ざされていましたから、こういう便法を使ったのです。そこで朝日は怒りました。

「新しい解釈」か「解釈改憲」か

読売は「解釈改憲」でなく、あくまで「新たな見解」、「新たな解釈」としました。政府が文言にこだわったのは、「解釈改憲」が「違憲」にあたると批判されるのを恐れたからでしょう。言葉のトリックでかわすしかなかったのでしょう。

テーマはがらりと変わって、今度は消費税の引き上げです。首相は14年11月に「10%への引き上げ(当初予定は15年10月)を17年4月に延期する。衆院を解散して信を問う。次は必ず実施すると断言する」と述べました。消費税延期に賛成する有権者のほうがずっと多かったでしょうから、「信を問う」ことは無意味だったのです。それでも解散したのは、安保法制の改革が政権への逆風になることを恐れ、増税延期を餌にして圧勝し、長期政権の道を開こうしたからです。

見事な公約違反ですね。そこで登場させたのが「新しい判断」ですね。またまた使った「新しい」には、「これまでの経緯はさておき」、「これまでの流れはあるものの、それはそれ」の意味が込められているのでしょう。苦し紛れというのか、はぐらかしているというのか。さらにメディアが強調する「2年半の延期」は、「当初から合計すると、なんと4年の延期」ですね。なぜそう書かないのでしょうか。

本気で10%にするつもりなのか

問題はそれよりも、首相は本当に消費税10%を実現するつもりなのだろうか、ということです。今回は「必ず引き上げると断言する」とはいっていません。さらに延期の理由として「新興国の経済が落ち込み、世界経済が大きなリスク直面している」ことをあげました。19年になって新興国経済が落ち込んでいたら、再々延期もありうる気配が漂っています。

財政再建の目標である20年度財政健全化(基礎的財政収支の黒字化)努力を続け、「ぎりぎりのタイミングである19年10月に消費税を引き上げる」と会見で強調しました。おかしな主張ですよ。そんな直前になって消費税を引き上げても、税収増の累積効果は少ないのではないですか。黒字化を狙うなら、もっと早くから引き上げるべきでしょう。要するに、財政再建は二の次で、ずるずる引き上げを先送りしたいが本心でしょうか。

G7サミットの場で「リーマン・ショックの再発の恐れ」と述べ、国内外から経済的常識を疑われたためか、首相は会見で早々に「リーマン・ショック級の事態は発生していない」と語り、発言を全面的に撤回しました。消費税を引き上げるという姿勢に、言葉はいろいろちりばめていても、真剣さが伝わってこないのですね。

「エンジンの全開」発言に驚く

首相は発言で恐ろしい意味のことを強調しています。「今こそアベノミクスのエンジンを最大にふかし、速度を最大限まで上げなければならない」と。なんど同じことを繰り返し、財政赤字の山を作ってきたのでしょうか。またそれを実行したら、財政危機が一層、深刻化するだけでしょう。秋の臨時国会で数兆円規模の大型補正予算を組む予定です。日本経済の危機の原因は潜在成長率の低下(0%台前半)にあり、異次元緩和や財政出動の効果は少ないというのが定説です。財政は、政治家が選挙に勝つための財布ではありません。

アベノミクスは、異次元緩和、財政出動という間違った処方箋のもとで、金融も財政も、先進国中で最悪という状態をさらに悪化させています。膨大な金額に膨張している日銀の長期国債保有残高、これまた財政の膨大な国債発行残高をどうするのでしょうか。日銀も財政も「出口」がないのです。そんな状態なのに、「エンジンを最大にふかし」とはね。「アベノミクスの成果で税収増は12兆円」とか政権はいいます。そこで聞きましょう。「3年間で国債残高はいくら増えたのですかね」と。税収増はできるだけ使わずに、まず国債の残高削減に向けるのが筋でしょう。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2016年6月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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