落語の「なぞかけ」が秀逸な問題解決方法だった件

石田さん

※写真右は6代目 三遊亭円楽師匠、左は石田氏

皆さまは、インクルージョン(Inclusion)という言葉をご存知でしょうか?一般的には「包含する」「一体性」などの意味で使用することが多いと思います。日本では、厚労省の「社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会」(平成12年)で使用されたのが最初と言われています。社会福祉政策を標榜する用語として、さらには、コンサルティング会社が「問題解決の思考法」として使うようになり浸透してきました。

インクルージョン思考』(大和書房)は、石田章洋氏(以下、石田)が6月に上梓した著書になります。石田は、放送作家として「世界・ふしぎ発見!(TBS)」「TVチャンピオン(テレビ東京)」「情報プレゼンター とくダネ!(フジテレビ)」などを手がけ、三遊亭楽太郎(6代目 三遊亭円楽)の弟子として、三遊亭花楽京を名乗っていたことでも知られています。今回は興味深い思考方法のいくつかを紹介したいと思います。

●インクルージョン思考とはなにか

石田は、インクルージョン思考について「複数の問題を一気に解決する方法」と述べています。たとえばビジネスの局面で、商品開発や組織改革、対人関係問題などを一気に解決しなければいけないとき、“あっちを立てれば、こっちが立たない”といった複数の問題に頭を悩ませることは少なくありません。

「早さを優先すれば正確さが担保できず、正確さを優先させると遅くなってしまう」「品質を向上させたいが、同時にコスト削減も求められている」といったトレードオフの問題はつねにつきまといます。

いまの社会においては、いくつもの対立する複合的な問題が密接に絡み合うなかで回答を導き出さねければならない局面が増えています。これは、ビジネスや政治の世界でも同じことかも知れません。

●落語家は「なぞかけ」で思考を明確化する

ある事実や現象から、新しいアイデアをつくり出すプロセスは、落語家の「なぞかけ」に似ていると、石田は述べています。三遊亭楽太郎(6代目 三遊亭円楽)の弟子として修行をしていた石田ならではの手法は非常に興味深いものです。

出題者「お坊さんとかけて、なんと解く」
解答者「朝刊と解く」
出題者「そのココロは?」
解答者「今朝(袈裟)きて、きょう(経)読むでしょう」

解答者である落語家は、お題を出された途端、とっさに「お坊さん」の特徴を思い浮かべます。「お寺に暮らしている」「葬式などの法事に来る」「お経をあげる」などがあげられます。その後、その特徴を、他の具体的な例に落とし込みます。そして、「袈裟を着ている」「お経を読む」といった特徴から「袈裟と今朝」「経と今日」を関連づけて「朝刊」という「解くもの」が導き出されます。

普通に考えていては「お坊さん」と「朝刊」には何の共通項も見出すことができません。しかし、このようなプロセスを経ることで関連性のあるヒントが見えてきます。

石田は、「なぞかけ」で構造の本質を理解できるとも述べています。「落語家がおこなっている『なぞかけ』の多くはダジャレです。いまの例でいえば、‘袈裟’と‘今朝’、‘経’と‘今日’という、耳に届く音の共通点を示したにすぎません。しかし構造の本質を探る『なぞかけ』も存在するのです。」

出題者「○○さんとかけて」
解答者「ロウソクと解きます」
出題者「その心は?」
解答者「我が身を削って、周りを明るくしています」

これなどはダジャレではありません。○○さんは、いつも汗をかいて周囲によい影響を与えているのかも知れません。その普段の姿勢や行動を、自らの体であるロウを燃やして火を灯すことに関連づけています。このような「構造」や「本質」を理解した上で、異分野にこそ共通項を見出すことができると。

●異分野に共通項を見出す

一見関連性がないと思われるものに共通項を見出せることがあります。石田は次のお題を提示していますが、皆さまには、AとBにはいるココロが分かるでしょうか?よろしければ一緒に考えてください。

出題者「東京ディズニーランド」とかけて
解答者「Bと解く」
出題者「そのココロは?」
解答者「・・・・・」-A

出題者「ボクサー」とかけて
解答者「指輪の宝石」と解く
出題者「そのココロは?」
解答者「・・・・・」-B

※解答は、本記事の下に記載。

これが解ければ、お題を多角的な視点で眺め、柔軟に結びつけることで、異なる分野のものが、結びつく感覚が理解できるでしょう。アイデアは「多角的な視点」と「柔軟な思考」によって異分野のものを関連づけることで生まれます。

最後に、石田のメッセージを引用し結びとします。「他人と差別化できなくなってしまえば、いくらでも代わりの人はいるわけですから、汎用化した商品と同じく、結局、安い価格=賃金で買い叩かれてしまうしかありません。あなたの値段は、いかにほかの人と差別化できて、真似できないことができるかにかかっているのです。~中略~ インクルーシブなアイデアを考えられることは、現代を生き抜く『武器』となるのです。」

尾藤克之
コラムニスト

※お題の解答

出題者「東京ディズニーランド」とかけて
解答者「B」と解く
出題者「そのココロは?」
解答者「シー(C)のとなり」

出題者「ボクサー」とかけて
解答者「指輪の宝石」と解く
出題者「そのココロは?」
解答者「リングのうえで輝く」-B

追伸

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