売り放題の通常兵器をなぜ野放し
G7サミット(先進国首脳会議)で来日したおり、オバマ大統領は現職として初めて被爆地、広島を訪れ、多くのメディア、識者は、「核兵器なき世界へ」の歴史的な意義を絶賛しました。そのことにまったく異論は唱えません。異論があるのは、もう一つの深刻な問題が、オバマ・フィーバーの影に隠れてしまっていたことです。
米ロ独仏中などが売りたい放題に扱っている通常兵器のことです。「今さら規制なんかできるはずがない」、「自衛のためであり、敵国に対する対抗上、規制すべきではない」と、取り上げることすら放棄されてしまっています。通常兵器の輸出規制をまともに論じるべきだと主張すれば、「非現実的だよ」と、一笑に付されることでしょう。
オバマ氏は広島で、「亡くなった10万人を超える日本人」などと語りました。実際は、広島、長崎で20万人以上が生命を落としています。時代は変わって、中東のシリア内戦では、戦闘員、民間人、子供を合せて、死者は「2011年以来で25万人」とか「37万人」とかいわれています。通常兵器の犠牲者です。
被爆者を超えるシリア内戦の犠牲者
原爆の犠牲者は深い悲しみのもとに、大統領まで参列し、追悼されるのに対し、シリア内戦の死者は主要国からみると、統計上の数字の扱いしか受けないように思われます。原爆犠牲者とシリア内戦の犠牲者を、時代も背景も異なるので、そもそも同列に論じるには無理があるのは事実です。
それはともかく、オバマ氏が来日する直前、ベトナムを初めて訪問し、防衛に必要な装備を取得できるように、武器禁輸措置を全面的に解除したとの報道には、複雑な思いも交錯しました。新聞の社説などが「中国の脅威に共同で対処することを確認した意義は大きい」としたのは当然としても、こういうことが数々、重なり、時代も変わり、「結局、通常兵器が世界各地に拡散していくのだな」と思う人は多いでしょう。
二国間の防衛協力の強化、当事国の自衛強化のために供与されたはずの兵器が、信用できるはずだった政権の崩壊で、各地に拡散した例は無数にあります。米国が打倒したフセイン政権後のイラクからも、大量の兵器がシリアなど流れこんでいます。供与する時は、厳しい条件がついているのでしょう。それがいつの間にか、歯止めがなくなり、世界の戦乱地を転々とすることになるのですね。
兵器産業が国の繁栄を支える
「イスラム国」のテロの標的にされたフランスは、主要な武器輸出国です。15年の兵器輸出の受注額は、過去最高の2兆円に達したそうです。中東情勢の悪化を始め、世界的な地政学的リスクの高まりで、自衛や防衛のための武器需要が増えているそうです。仏製の潜水艦製造がオーストリアとの共同事業となり、仏の国防相が「数千人の雇用が生まれ、それが50年間も続く。大きな勝利だ」と、称賛しました。
オバマ氏が「核なき世界」へ高邁な決意表明をしたすぐ脇で、友好国の仏が軍需産業のお陰で、国の経済が繁栄することを喜んでいるのですからね。そのアメリカも、相次ぐ銃の乱射事件が起きているにもかかわらず、「自己防衛のため銃は必要」、「自国の銃器産業を守れ」とかで、おざなりの規制強化しかできないでいます。
経産省の通商審議官だった畠山氏が著書などの中で、「使わない、使えない大量破壊兵器(核、大量殺傷兵器)は厳重に規制し、国際協定もある」、その一方で「使える、使っている通常兵器については、一般的な禁止条項がない」と、指摘しました。単純に割り切れば、「使えない兵器の禁止強化」、「使える兵器の野放し」という笑えない矛盾です。簡単に使える兵器ほど野放してあるので、テロや内戦に重宝され、その結果、武器供与国も困り果てる。笑えません。
オバマ氏の美文調で崇高な広島演説に酔った人ほど、兵器輸出、兵器産業が世界をいかにゆがめているか、考えてみるべきでしょうね。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2016年6月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。