テリー伊藤さんは、依存症についてコメントしないで --- 田中 紀子

高知東生さんの事件のマスコミ報道は、相変わらず、誰のためにもならないひどい扱いばかりで、依存症問題の対策推進に奔走している、関係者の一人としては大変憤りを感じています。

特に、薬物依存症で苦しむ方、またそのご家族の胸中を想うと心が痛いです。

そして、以前にも書きましたが、またしてもテリー伊藤さんという、売れっ子芸能人が、わかったようなコメントを発し心の底から怒りを感じます。コツコツ積み上げている、薬物依存症問題の誤解や偏見を解くための、関係者の努力を、ふいにしないで頂きたいものです。

ハッキリ申し上げます。
依存症のことを何も知らない、素人のあなたが、叩きやすい人を叩くという安直な方法で、薬物依存症に対する、間違った見解をメディアに垂れ流すことは、どうか今後一切おやめ下さい。

日本の薬物問題は、あなたが安直に利用して良いほど、軽い問題でも、安易な問題でもありません。
また、薬物依存症者に対する人権問題についても、日本は著しく取り組みが遅れていることを、あなたはご存知でしょうか?

そして、その人権問題に対して、皆自腹で海外に視察に行き、日本でこの考え方を導入するためにはどうすれば良いか?何ができるか?と、研究者の皆さん方はじめ、我々現場サイドの人間も、東奔西走していることをあなたはご存知でしょうか?

テリー伊藤さん、あなたはそんなに弱い者いじめが好きですか?
逆境に陥った人間に対し、回復を望むのではなく、叩きのめし、二度と立ち上がれないようにすることを、望んでおられるのでしょうか?

あなたは、高知東生さんが、警察に送られる車中の様子に対し、「何が腹立たしいかというと、あのふてぶてしい態度。下を向いてないでしょ?性格が出ているよね。清原の護送を見て『おれはああいう態度は取らないぞ』と」
「多分、今も反省していないと思う」とおっしゃっています。

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あなたは、依存症者の家族の気持ちを考えたことがおありでしょうか?

依存症者の家族というのは皆、普通の暮らしをしている一市民です。
私もその一人です。

依存症者の家族は、あの警察への移送で顔を隠しうなだれる場面を、見ることがとても辛く苦しいのです。
依存症者は、心の病を抱えた病人あって、悪人ではありません。家族は回復を信じ、顔をあげ、自分の病気に真正面から向き合って欲しいと願っています。

私たちは、高知さんが顔をあげ、移送されていく姿に、「捕まって、これでやめられるとホッとしたんだろうな」と、希望を見出しています。あなたの見方とは真逆です。

依存症者は、何度も何度も反省し、もちろん自分を責めています。
責め続けたあげく、それでもやめられずに、最後は自殺を選ぶ人がとても多い病気です。反省していないのではなく、反省ではやめられないのです。

どうかでたらめの見解を述べることはおやめ下さい。

更にあなたは、逮捕時「来てもらってありがとうございます」と話したとされることに触れ、「軽い言葉。本当に更生したいならこんな言葉は出ない」と斬り捨てられました。「更生したいなら、こんな言葉はでない。ふざけるなと言いたい」とおっしゃいました。

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私は、あなたに「ふざけるな!」と申し上げたいです。

薬物依存症者は、「やめたい」「やめたい」と苦しみ続けています。やめられない苦しみから、自ら警察に電話をする人も多いのです。だからこれが事実だとすれば、高知さんは「これでやっとやめられる」と思い、「ありがとうございます」と述べられたのだと思います。

更生したい、回復したいと思っていたからこそ、思わずでた言葉なのだと、私たちにはとても良く理解できます。
知識もないのに、いい加減な思いこみで、まるで薬物依存症者には人権などないとばかりに、貶めるのはやめて下さい。

薬物使用は確かに違法です。
だから病気のせいにして、罪を逃れようとしているのではありません。
よく誤解されますが、私たちが病気と発信したからと言って、罪から逃れているわけではありません。罪と病気の両方を受け入れているのです。

こうして薬物依存症者を罵ることは、あなたの正義感が刺激されて、大層気持ちの良いことなのかもしれません。
けれども、あなたの正義感で、薬物問題が解決に向かうのでしょうか?
誰でも言えるような、叩きやすい人への非難を発することで、何かが変わるのでしょうか?これまで何かが変わってきたでしょうか?

ちなみに「刑の一部執行猶予」という制度が、今年の6月1日から施行されたこと、勿論あなたはご存じないかと思いますが(毎日新聞より「刑の一部執行猶予始動」

あなたのように叩きのめすだけではなく、
こうして国をあげて、どうやったら回復し、社会復帰できるかについて、どんどん新しい取り組みが始まっています。
古い道徳概念では、何の改善もないと、日本の社会も気がつき始めたからです。

テリー伊藤さん、あなたは芸能人であって、薬物依存の専門家ではありません。
この困難な社会問題の解決に取り組み尽力している、全ての関係者の努力に対し、もっと敬意を払い、どうかその口を閉じて下さい。

心からお願い申し上げます。


編集部より:この記事は、一般社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表、田中紀子氏のブログ「in a family way」の2016年6月30日の記事を転載しました(見出し、本文の一部をアゴラ編集部で改稿)。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「in a family way」をご覧ください。