天皇の生前退位で宮内庁は逃げるな

中村 仁

人道上の問題ではないのか

天皇陛下が生前退位を望んでいるとの報道がありました。早くも宮内庁関係者の一部には、「困った事態になる」と、逃げの姿勢のようなものが感じられます。天皇に対して失礼な言葉を許して頂けるとすると、これは人道上の問題です。込み入った議論、複雑な手続き、反対派に対する説得などが必要でしょう。宮内庁はもう逃げていけません。

報道で不思議に思ったのは、天皇はご自分の意向は数年前から、ごく少数の関係者に伝えていたそうです。「なに、数年も前からの話。関係者はその数年間、何をしていたのだろうか」ですね。恐らく、困惑する一方で、内輪であれこれ議論はするものの、頭を抱え結論を先延ばししてきたに違いありません。

NHKのスクープが飛び出したのは、参院選で自民党が圧勝し、安倍首相の1強体制がさらに強化され、改憲派が衆参両院で3分の2を獲得した直後です。他のマスコミ関係者も動きを感じ取っていたとの報道もあります。天皇退位に関する問題だけに、それだけでは報じることはしないでしょう。極めて有力な筋がリークした結果としか思えません。

安倍1強政権に期待をかけたか

有力筋のリークがあったすれば、「安倍政権なら何とかしてくれる」だろうとの期待からでしょう。最高権力者の周辺もやむおえないと判断したのかもしれません。事前了解の臭いもします。ちろん、微妙な問題ですから、以心伝心めいたやりとりに違いありません。やり取りが明るみになったら、それだけで問題が紛糾してしまいます。

天皇の政治的な発言は憲法で禁じられています。皇室典範の改正、天皇制の制度変更に関係してくるような発言、意向の表明もできないようですね。だからごく少数に限り、表現にも十分、気を遣いながら、希望を伝えたのでしょう。それを直接の関係者が責任を持って、天皇のお気持ちに沿おうとする努力を怠ってきたと、推察されます。

あまりにも長い間、宮内庁などの関係者が棚上げにするものだから、安倍政権の圧勝後に何かを期待して、NHKにリークしたという流れでしょう。報道後は、「多面的に議論を」、「政府は慎重に対応」、「静かな環境で議論深めたい」など、大して意味のない指摘がもっぱらです。

議論は簡潔に、結論を急げ

高齢の天皇がかなり無理を重ねられている様子をみると、議論を急ぐ必要があります。「女性宮家の創設の検討」、「皇室典範の広範な改正」など、どんどん議論を広げていくと、時間ばかりかかり、結論がでないまま、「生前退位」問題が自然消滅してしまうこともありえます。82歳という高齢、各地を訪ねる激務、強い責任感を思うと、皇后陛下とともに、早く楽になっていただくことが国民の務めでしょう。

生前退位された後、皇太子が天皇を継承する意向のようですね。皇太子と秋篠宮にはその意向が伝わっているとのことですね。週刊誌などが皇室内の不況和音をもう報じないよう、皇位継承問題にケリをつけ、すっきりさせたいと願っている皇室関係者は多いのではないですか。天皇の意向の裏側には、もう一つの強いお気持ちがあると、推測します。

「天皇は自らの地位について発言できない」、「いや、それをご存知のうえでのお気持ちだ」。さらに「将来、天皇の自由意思に基づかない退位の強制ありうる」、「天皇が恣意的に退位できるようになる」など、堂々めぐりの議論が際限なく続くことがないよう望みます。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2016年7月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。