自民党の“レッドソックス化”〜書評「情報参謀」

2016年08月19日 06:00
情報参謀 (講談社現代新書)

小口 日出彦
講談社
2016-07-20

 

 

どうも新田です。都知事選が終わった直後、現代ビジネスの瀬尾傑・前編集長(いまは講談社の第一事業本部長)のお誘いで、本書「情報参謀」を上梓したばかりの小口日出彦さんのメディア関係者向け講演に行ってまいりました。本書では、2009年の野党転落後の自民党が広報戦略立て直しのため藁をもすがる思いで始めた、テレビ・ネットの膨大なデータ分析による情報戦略の当事者として内幕を明かしております。

初めて明かされる“政界版マネーボール”の内幕

瀬尾さんが講演の誘い文句で「政界版マネーボール」と評したのは、実に言い得て妙。本家マネーボールは、大リーグの弱小貧乏球団のアスレティックスが、綿密な統計データ分析により、選手の隠れた才能を引き出し、チーム強化に成功したわけですが、本書によると、自民党も野党転落数か月後にはテレビの政治報道全体で、自民党中心の露出が2.9%にまで落ち込み(民主党関連は65.4%)、「発言権が奪われた」と嘆くようなどん底だったとか。

そりゃそうですよね、この当時はまさに蓮舫さんの仕分け女王ぶりとかで民主党政権が政治報道でまさに“絶頂期”でした。

本書では野党転落から政権を奪還し、ネット選挙が解禁となった2013年の参院選まで4つのフェーズに分け、自民党がデータを使って地味でコツコツ体制を立て直してきた経緯を振り返ります。テレビ報道の時間量やネットでの検索数など膨大なデータを定量・定性で、自民や他党がどう取り上げられているかを分析しているわけですが、たとえば2010年当時の報道の論調がつくられる時間帯について「世論は朝つくられる」といった傾向が出てくるあたり、「良いバッターは打率よりも出塁率の高い奴」的なマネーボール理論を彷彿とさせます。

折しも、尖閣沖の中国漁船衝突の動画がYouTubeに流出するなどネットが世論に与える影響が急速に高まった時代の変化をとらえながら、自民党は攻勢に転じてネット放送局を党本部に開設したり、谷垣総裁のツイッター対話集会をやったりしていくわけですが、そうしたネット戦略を裏支えした “小口理論”の試行錯誤ぶりも明かされていきます。

確実に進む政治のマーケティング化

なお、小口さんは講演時に直近のケーススタディとして、都知事選についても言及されておられましたが、時系列の報道状況が一目瞭然でわかる「バブルチャート」をご披露されており、たとえば「舛添さんがココとココでもっと上手く立ち回っておけば辞任することはなかった」などと広報パーソンが感覚値で評論する内容も写真のように鮮やかにデータ化して、まとめられております。

小口講演

一応、著者が取り組んだような露出量分析からの広報PR戦略立案は、民間ではかなり昔からやっており、「この商品カテゴリーの夏場のメディア露出が大幅に落ちるから、新しい山場を作るのに、どういう切り口を作り直せばいいか」的に活用されております。

そういう意味では政党PRがようやく民間レベルになり、政治の世界のマーケティング化が確実に進化しているなと改めて思うとともに、それを取材している側の永田町記者クラブ駐在の大手メディアの政治部記者たちが、そうした変化に気づかないか、見て見ぬ振りをしているかで旧来型の取材手法から抜け出しきれず、これからも政党・政治家の思惑に振り回されて、中長期的に見て、国民サイドの判断材料が適切に与えられるのかどうか、ジャーナリズム側にも課題が問いかけられているように感じました。

この出版も「自民一強」の証左か

それにしても、西田エグザイルセンセの「メディアと自民党」に続き、本書のような内幕を大胆に明かした本がこの時期に連続して出てくる政治的背景はどんなものなんでしょうか。

ある政治部OB氏は私に対して「昔なら、出来損ないのコンサルタントが仕事欲しさに暴露本を書いたものだが」という読後の感想を寄せて来られたので、「茂木さんも読んだそうで事実上公認本みたいですよ」と教えて差し上げると、信じられないようでした(笑)。まあ、かつての永田町の感覚だとそんなもんでしょうかね。裏を返せば、自民党が“種明かし”できちゃう余裕がある証左とも言えそうです。

一方の民進党は自民党の野党転落時とは全く対照的で、メディア戦略を立て直すどころか大迷走。「国民はボケてます」みたいなことを抜かす鳥越氏を都知事選に擁立し、惨敗して言いたい放題やってると、それにブチきれた板橋区議の中妻さんが赤裸々なブログを書いて炎上したのは記憶に新しいところ。

そういえば大リーグのマネーボールには後日談がありまして、アスレティックスでの成功を機にレッドソックスのような強豪もセイバーメトリクスを次々に導入。アスレティックスは近年こそ復調傾向ですが、2000年代後半は下位低迷が続き、ネット選挙業界でいうところの「正常化仮説」状態になったようです。新しい強化手法をいつまでも導入できず、万年弱小球団化が著しい民進アスレティックスと、野党時代に仕入れた秘密兵器に磨きをかけ続ける自民レッドソックスのゲーム差はいつになったら縮まるんでしょうかね。ではでは。

(関連記事)

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!
新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

関連記事

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑