本日午後1:30(日本時間)ごろFTが興味深い記事を掲載している。直訳すると「もしピークオイルが来たら、投資家はスマートになる必要がある」というタイトルだ(”If peak oil arrives, investors will need to get smart”)。
一瞬、今ごろ「ピークオイル論」か、と驚いたが、サブタイトルが “Investors assumed oil would be valuable in the future, but bets are off if demand falls” とあり、安心した。一世を風靡した「ピークオイル論」(石油供給能力がピークを迎える)ではなく、「需要がピークを迎える」という「デマンドピーク論」なのだ。
寄稿者はカリフォルニア大学のAmy Mayer Jaffe氏で、今年のダボス会議でも “Global Agenda Council on the Future Oil and Gas” を仕切っている御仁だ。
デマンドピークは先進国ではすでに始まっている。
たとえば日本の石油消費は、2005年の535万B/Dから2015年の415万B/Dへと、10年間で2割以上減っている。
Jaffe氏は、これが先進国に留まらず、エネルギー需要が旺盛な発展途上国でも起こる、したがって世界全体で起こる、それも10年か20年以内には起こる、としているのだ。
この議論は、「起こる時期」を別にすれば、決して新しいものではない。だが、Jaffe氏のように「10年か20年以内に」という時期については異論が多いだろう。筆者もその一人だ。
Jaffe氏は、IEAのみならず、Statoil、Shell、BP、TotalやConocoPhillipsの経営企画部門でも、バッテリーの技術革新や世界の気温上昇を摂氏2度以下に抑えることを織り込んだ結果がどうなるかを検討している、としているが、デマンドがピークを迎える「時期」については「10年か20年以内」とはしていないだろう。
BPは今年初めに発表した「長期予測(BP Energy Outlook 2016 edition)」の中で、2035年(約20年後)までに一次エネルギー全体で48%増加し、石油は63%増加する、としていることは皆さんもご存知のとおりだ。
Jaffe氏が指摘している「もし」、すなわち石油需要が早期にピークを迎える条件は、昨年末のパリ協定を推進する政策の実行が、太陽光や天然ガス利用の拡大、安価なバッテリー製造技術の革新、カーシェアリングの推進や公共交通網の拡大に基づく都市化、さらには効率的なエネルギー利用の進展などである。Jaffe氏は、これらが先進国のみならず、発展途上国でも早期に起こる、としているのだ。この結果、現在9,500万B/Dほどの石油需要量はピークを迎え、2040年には7,500万B/Dほどに低下する、という研究結果があるというのだ。
なるほど。
この「もし」の動向は注視する必要があるな。
だが、Jaffe氏も指摘しているように、重要なことは石油が使われなくなることではなく、使われる量が減少するということ、したがって生産者のあいだで競争が起こるので、投資家は投資先の「保有埋蔵量」だけではなく経営能力を冷静に判断する必要がある、ということだ。これは早期のデマンドピーク論者でなくとも同意する見方だろう。
また今年4月、ドーハ会議が土壇場で破綻したとき、筆者は心密かにサウジの石油政策の根本的変更を危惧していた。モハマッド副皇太子が、Jaffe氏のように「早期に石油需要のピークが来る」と判断して、伝統的な「長期にわたりエネルギー供給の中心に石油を位置づけることを目指す」政策を放棄するのではないか、と懸念していたのだ。つまり、地下に眠る石油をいっときも早く市場に放出し、現金に変える政策を採るのか、と心配したのだった。
5月末のOPEC総会で、ファーリハ・エネルギー相が「市場に石油を溢れさせることはしない」と発言したことで、この懸念は払拭されたのだった。
このような長期の視点を失わずに、一方で足元の動静を冷静に判断すること。
これが「着眼大局、着手小局」ということだろうが、言うは易く、行うは難し、だな。
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年8月18日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。