企業年金の危機

2016年08月30日 11:30

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2000年前後に、企業年金の危機があった。退職給付にかかわる新会計基準の導入が危機を作り出したのだ。原因は、低金利下における債務評価額の増大である。

もともと、日本の企業年金は、高めの利率を想定して債務額を算定し、その債務額を目標に資産を留保していたのだが、新会計基準の導入で、その積立利率を大きく下回る市場金利で債務を再評価することとなり、形式的に会計上の債務額が増大したのである。

ところが、資産額は変動しないので、その差が大きな積立不足となり、会計上、その不足を認識しなければならなくなった。また、退職給付費用も新基準で計上することとなり、経営者の企業年金に対する関心は、一気に高まったのである。

経営者の関心が高まること自体は、望ましいことである。しかし、当時の事情として、止むを得ないことではあったが、経営者の関心は、退職給付会計上の債務と費用の削減に向かったのである。故に、企業年金の危機である。なぜなら、理論的に、退職給付債務と費用の削減は、企業年金の給付そのものの削減以外には、あり得ないからだ。

ただし、法律上、絶対的な意味での従業員の処遇の削減はできないわけで、既存の企業年金の給付を削減すれば、それに替わる給付を増やすしかない。

政府も、産業界の意向を入れて、新たに確定拠出企業年金制度を導入する。これは、退職後に受け取れる仕組みの企業内非課税個人貯蓄制度であり、厳密には年金ではないが、企業にとっては債務性がないことから、伝統的な企業年金から移行する企業が増えたのである。

また、企業年金の前提となっている退職金の前倒しというか、企業年金の給付を削減もしくは廃止し、月例給与等に振り替える動きも出た。そうした制度改正のなかで、企業年金を廃止し、制度の解散を行う企業すら、現れたのである。

このようにして、企業年金に限らず、当時の産業界全体の経営行動として、内向きの経費削減による縮小均衡へ傾いたことは、結果として、総需要の累積的減退を招いた側面は否定できない。なかでも、安定雇用が崩れ、故に、企業年金制度の戦略的機能が見失われたことは、非常に残念なことであった。

安倍政権になって、やっと、安定雇用の意義が見直されたのである。さて、ならば、企業年金の戦略的意味についても、再考の動きは出てくるのか。

 

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
HC公式ウェブサイト:fromHC
twitter:nmorimoto_HC
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