日銀の布野審議委員の講演に意外感

2016年09月02日 11:30

9月20、21日の日銀の金融政策決定会合で公表される予定の総括的な検証のヒントを求めて、例えばジャクソンホールでの黒田総裁の講演内容などを確認してみたが、いまのところ何がしかのヒントが明示されているわけではなさそうである。

少なくとも総括の前提条件として、日銀の追加緩和への前のめり姿勢が維持されるであろうことは想像に難くない。また物価目標の変更もないとみられる。こちらは政府との共同声明が存在しているため、政府との交渉が不可欠となるためである。

今回の総括的な検証にあたっては政府というか首相官邸との擦り合わせがあるのかどうかは疑問である。今年1月のマイナス金利政策の導入の際に政府出席者は一時中断の申し出を行っている。形式だけのものとの見方もあるが、擦り合わせは行われていなかったとの見方もできよう。

もし検証のヒントが出されるとすれば、当然ながら執行部が真っ先に報告するであろう黒田日銀総裁から出ることになると考えられる。そうであれば9月5日のきさらぎ会での総裁講演が大きなヒントとなりうる。総裁、副総裁あたりを含めての総括検討後に審議委員にも報告が行くとみられ、ある程度その了承の目処が立った後、20日の決定会合を迎えることになると予想される。

その審議委員の一人、布野審議委員の講演が8月31日に新潟であった。総括へのヒントはないであろうと思い、個人的にはさほど関心はなかった。ところが要旨の内容はなかなか興味深いものであった。

布野委員の講演のニュースにおけるヘッドラインには、「日本銀行は、今後ともプラス2%の「物価安定の目標」の早期実現を目指し、「量」・「質」・「金利」の3つの次元の緩和手段をすべて動員して、しっかりと金融緩和を推進していきたいと思います。」との部分に焦点が当てられていた。今年1月の会合を含めて賛成票を投じてきた布野委員であったため、金融政策に対しての公式コメントはこうならざるを得ない。だから私は関心がなかったのだが、そのあとに面白いものがあった。

「次に、私なりに、より長期的な視点から、日本経済が置かれている状況を考えてみたいと思います。」

ここからはまさに「私なり」の意見となる。布野委員は果たしてどのような見方をしているのかはこの部分を探ることでどうやら確認ができそうである。日本経済に対して布野委員は比較的楽観的な見方をしていた。

「実は、日本にはアジアという世界で最も急成長をしている市場が背後に控えています。この成長を取り込むことが出来れば、需要サイドでの人口減少による需要不足の問題を薄めることが十分可能です。」

「欧米に比べて日本はまだまだ余裕のある人の使い方をしているのも事実ですので、生産性の「伸びしろ」が十分残っているとも言えます。」

まさにトヨタ出身の布野委員ならではの見方であるが、ここに無理矢理物価目標を達成しなければならないとの理屈とは距離を置いている。

 「将来のために、どう取り組むべきかですが、現在の政府、日本銀行による大胆な経済対策と緩和的な金融環境の下にあって、民間部門としてはこのチャンスを活用して積極的に構造改革を推し進めるべきではないでしょうか」

あたりまえの発言に見えるが、今の黒田日銀の発想とは異なるものとなる。日銀が大胆な金融緩和をすれば、それによって景気は良くなり、物価も上がるというのが黒田日銀のリフレ政策の胆である。ところが布野委員のこの発言は黒田以前の日銀の金融政策の考え方そのものである。

 「以上のような課題への取り組みには企業の努力がまず重要です。一方、日本銀行としても、緩和的な金融環境を最大限に活かして貰えるように、「貸出支援基金」を設けて、低利かつ長めの資金供給を行っています。」

日銀の金融政策が主で企業が従という発想ではなく、日銀はあくまで環境作りをしての側面支援という位置づけとなる。

これを見ても明らかなのは、布野委員はリフレ派の考え方ではなく、本来の日銀の金融政策に近い考えを持っているように思われる。これは黒田総裁、岩田副総裁、原田審議委員、櫻井審議委員の考え方とは一線を画すことになる。政井委員も決してリフレ政策に賛同していることは考えづらい。

今回の総括においてさらにリフレ色を強めるようなことがあり、出口を遠ざけるようなことになると、果たして木内委員、佐藤委員、布野委員、政井委員がどのような反応を示してくるのか。数の上からみても決して日銀はリフレ派が優位ということはない。むしろリフレ政策の修正をどう図っていくのかも、政策委員にとっての大きな課題となる以上、今回の総括は意外に一筋縄ではいかないかもしれない(やや期待も込めて)。

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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年9月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。

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