蓮舫氏の国籍に対する大手紙の報道姿勢

中村 仁

ネットを黙殺できず後追い

民進党の代表選に出馬している蓮舫氏が日本と台湾の二重国籍を持っているのではないか。この疑惑を言論プラットフォームの「アゴラ」が舞台になって、元経産省官僚らがもう2週間以上、連日、次々に疑問点を発掘し、追及を続けてきました。大手各紙は「ネットで騒いでいるにすぎない。いずれ下火になる」くらいに思ってきたのではないでしょうか。

ネット情報は膨大な量に上るし、玉石混交で信頼できないから、いちいちフォローしていられない。中傷誹謗を狙った意図的な情報も多く、情報の中心的な発信源は新聞・テレビだ、というのがネットに対する認識なのでしょう。

それが下火になるどころか、蓮舫氏自身が7日になって、台湾籍の放棄を届け出たことを明らかにしました。「1985年に放棄の手続きは取っている。今回は念のため、国籍放棄を改めて届け出た」としています。蓮舫氏の説明はそれまで二転三転、「台湾籍は離脱している。質問の意味が分からない」と周囲をはぐらかせてきましたから、勝負あったですね。

発信者の実名をなぜ書かぬ

後追いの形で大きな記事にした朝日新聞、産経新聞などに、疑惑の追及者は怒っています。丹念に疑惑を掘り下げてきた八幡和郎氏、問題提起の舞台となった「アゴラ」は、「一部に報道された」とか、「ネットで指摘された」などの大手紙の表現は許されないと批判しています。問題を最初に発掘し、報道した当事者の名称を紹介、明記すべきだというのです。

メディア報道、特に新聞は発表物偏重の報道姿勢が批判され、政権、省庁、検察・警察などに頼らない独自の調査報道に力をいれていかなければならなくなっています。今回の二重国籍問題は八幡氏が中心になって調査、執筆し、「アゴラ」も応援して波紋を広げました。発端は内部告発ではなく、国籍に対する問題意識が出発点だったようですね。第一報を読んで、各方面から追加情報の提供もあったのではないですか。

問題点を探知し、コツコツと調べあげ、ネットで成果を次々に公表し、ついに伝統的メディアである新聞・テレビも取り上げざるを得なくなった。新しいケースでしょう。内部告発に独自調査を加味した週刊誌報道を、新聞・テレビが後追いするケースが続出していますね。今後はさらにネットをベースにした調査報道が増えていくのでしょうか。

新しいネット報道の予感

ネット上でブログなどの形で問題提起する専門家は無数、おります。ただし、問題提起が単発に終わりがちですね。将来は、一つの問題提起に専門家が次々にリンクし、ネットのサイトないしプラットフォームが交通整理し、社会を動かして行く。そうしたメディアの新しいやり方が力を得ていくことは可能です。新聞・テレビもこうした試みを最初から放棄する必要はなく、新しい報道手法にチャレンジする価値はありそうですね。

一連の指摘に接していて、国籍に関する規定はかなりルーズであることも分かりました。「外国の国籍を有する者は、外務公務員になれない」、「国籍を有しない者は、国家公務員の採用試験を受けられない」などの規定は当然です。それに対して、首相は「国会議員の中から指名する」、国会議員は「日本国民で満25歳以上」などの規定あっても、直接的な国籍の規定(二重国籍者の排除)はないようですね。今後、どうするのか。

最後にまた、蓮舫さん。テロ、難民、移民対策で国籍を確認する重要性はますます増しています。野党第一党の代表、つまり政権交代があれば首相になりうる候補者です。疑惑が浮上したらすぐに証拠書類をそろえて釈明するくらいの素早さが必要でした。説明がくるくる変わったり、今ごろになって台湾籍放棄の書類を提出(再提出?)するなんてどうしたことでしょう。蓮舫氏に対するチェック能力はなかったと思われる民進党もどうかしていますよ。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2016年9月5日の記事を転載させていただきました(画像は朝日新聞2016年9月8日付朝刊より)。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。