ドゥテルテ大統領は稀代の虐殺者か世界の救世主か --- 本元 勝

今、何かと物議を交わしているフィリピンのドゥテルテ大統領。

「国連が無礼なクソ野郎なら、我々は去るだけだ」

「領有権問題でいずれ中国と落とし前をつける時が来るだろう」

「中東の虐殺も解決できない国連は黙っていろ」

また、麻薬犯罪者撲滅の為、超法規的な手法を含む厳罰対応で取り締まっているという。報道されている経過としては、逮捕した麻薬犯罪容疑者は1万5千人、厳罰に恐れをなして自首した容疑者は約70万人。また、事実関係は詳らかではないが、3千人からの超法規的処刑も行われていると言われている。

麻薬は現在、世界中の殆どの国で犯罪であると規定され、無期懲役や死刑といった重罪を科す国も少なくない。それは、麻薬が自己又は他人の生命、身体、自由又は財産を脅かす可能性が高い犯罪であると多くの国で認識されているからに他ならない。今回取り沙汰されているドゥテルテ大統領の超法規的手法に対する評価は別におき、単純に逮捕者と自首者の数字だけを見れば、フィリピンの麻薬犯罪撲滅政策の現在までの成果は、絶大であると言えよう。

さて、今回のフィリピン、ドゥテルテ大統領の政策に対し、欧米や先進国の国際社会は強い批判を繰り返しているが、ドゥテルテ大統領の歯に衣着せぬ暴言や、超法規的処刑という一面だけを捉え、糾弾してはいないだろうか? 勿論、超法規的処刑を支持するつもりは一切ない。しかし、欧米や国際社会は、自分たちの考えるモラルが常に絶対であるとの前提で、自分たちが考える人権や民主主義を押し付けてはいないだろうか?

ドゥテルテ大統領は、大統領就任にあたり、選挙で過激な麻薬犯罪撲滅政策を掲げたうえで圧勝している。そして現在、公約通り麻薬戦争と銘打ち実行するこの政策は、麻薬犯罪者に対し、自首を条件にして更正施設への入居などを呼びかけるという一定の手続きを踏んだ上で、厳しい処分を科しているものなのだ。そして、フィリピン国民の支持率は俄然高いままであるという。このような状況から、多くのフィリピン国民が、麻薬問題について市民生活を脅かす重大な問題と認識し、喫緊に危機排除の為の厳格な対応を強く求めているのではないかと考えられる。私には、ここに国際社会が糾弾するような、フィリピン国民の人権と民主主義が否定されているような構図が見受けられないのだ。

さて、欧米・国際社会は、ここに存在しているフィリピン国民が示した民意については、どのように考えているのだろうか?

国連は、「適切な司法手続きに基づかない殺人は違法」、国際社会は、「人権」と「民主主義」について大きな問題だと連日糾弾を続けている。しかし、アフリカやアジアの途上国の特にインフラが整備されていない地方地域では、未だ裁判などもコミュニティベースでの紛争解決が中心である地域も多い。またアジアの多くでも、許認可や逮捕などは、現地法でも適法ではないと思うが、その場で担当する警察官の裁量によって処理されるような手続きが日常的に行われているのが実態なのだ。そもそも途上国の無法地帯ともいえるスラム街で、人権などと言ってボヤっとしていたら、命が幾つあっても足りないということも、世界の常識だろう。これら地域では、必ずしも欧米・先進国が定義する範囲の人権や民主主義、そして司法手続きが行える、また適すとは言えないのだ。

世界の国々は、地理・歴史・文化・習慣・政治・宗教・人口・経済他、同一の環境はひとつとしてない。それぞれの環境の中で変化と適応を繰り返しながら独自のモラルが醸成され、人権や民主主義についての定義や捉え方も、それぞれの国や地域で異なっていて当然の事なのだ。同じ国であっても変化が起こる。欧米・先進国では、このわずか2,30年の短期間で、人権に関する範囲は大きく変化しているのだ。

今後、国際社会が本当に世界に向けて提唱しなければならないこととは、欧米・国際社会において発生した、新しい価値観を世界の個別の国々に対し、浸透させることではない。現代的・最新でないと感じても、それぞれの国や地域の独自・多様な価値観について、寛容な理解を示し、尊重していくことこそが、真のマイノリティ対応なのではないかと思う。

重ねて申し上げますが、本稿筆者は、超法規的処刑について肯定・支持するつもりも、また、人命を軽視する考えも持ち得ません。あくまで独立国であるフィリピン国民の民意と欧米・国際社会の声の極端な乖離について考えてみたものであります。

欧米・先進国が長きに亘り、何の解決策も見出せず、悪化の一途を辿る世界的な麻薬問題。ドゥテルテ大統領とフィリピン国民が自ら血を流し実行に踏み切ったこの改革が、仮に一定の解決を成し遂げたとしたならば、ノーベル平和賞に値する世界の救世主的な評価に変わるのではないだろうか。

本元 勝
グローバルセールスエージェント
東京商業支援機構

 

※アイキャッチ画像はドゥテルテ氏Facebook公式ページより(編集部)