政治部にIT記者を配属せよ
安倍首相の支持率の高さを支えている秘密の一つは、ネット戦略にあるようですね。臨時国会の冒頭における所信表明演説を聞くと、ネット検索でヒットしたり、話題になりそうなスローガン、言い回しが続出しています。とにかく受けはよさそうで、勇ましい誓いが次々に登場しました。政策の事後検証なんかどうでもいいというスタイルですね。
政治部記者が演説をあれこれ分析、解説しています。新聞をもっと読まれるようにするには、政治部にITに通じた専門記者を配属することです。首相側がIT戦略を駆使していると思われる世論戦術を展開しているのに、IT的思考、発想に不慣れな政治記者ばかりの組織では、ありきたりの迎合的記事しか書けません。
各紙ともネット部門を作ったのに、政治部にIT記者を配属し、活用する着想がない。IT記者に政治現象、政策解剖、政治家の行動を解剖させるのです。新しい発想、新しい角度で政治記事を書くのです。
IT武装をして政治報道にかかれ
安倍首相の演説は恐らく、筆の立つスピーチライター、キャッチ作りがうまい広告会社のコピーライター、集積されたネットデータを活用・分析するIT専門家らの集団が草稿を作り、安倍首相が手を入れているのでしょう。国会演説に限らず、各分野の政策、計画を決める時も同様でしょう。歴代の首相の中では、IT戦略を最も駆使しているに違いありません。取材する側もIT武装をしてかからないと、利用されるだけです。
演説の冒頭の「はじめに」は、「世界一への執念」という一言です。これは明らかに首相の意向、指示でしょう。4年後まで自分は首相を続けたいのだという意思表示であることに間違いありません。では、どんな世界一かというと、「4年後の東京オリンピック・パラリンピックは、世界一の大会にする」というのです。
日本がとる金メダル、メダルの総数ですかね。世界一は米国あたりに決まっています。パラリンピックはどうでしょう。今回、中国がメダル総数では220、金94個とり、ダントツの一位でした。日本は金ゼロ、総数もはるか下位でした。障害者スポーツの施設、指導員の体制がお粗末で、まともにその充実を考えてこなかった結果です。大会の華やかさを「世界一」というのでしょうか。「世界一」は五輪になじまず、意味不明です。
「未来」が18回も登場する理由
それでも五輪を冒頭にふったのは、中身が空疎でも、オリンピック、さらに「世界一」となると、ネット検索、テレビやブログの話題にはなりやすいからでしょう。「未来への投資」、「一億総活躍の未来」など、「未来」という表現が18回、これも薄気味悪いほどでてきます。検索キーワードにはなります。露出度が高まると、何かをやっている印象を与え、支持率の上昇につながるという経験法則によるのでしょう。
首相は演説の中で、「断固として、我が国の領土、領海、領空を守る。現場で夜を徹して、海上保安庁、警察、自衛隊の諸君が任務に当たっている」と述べ、自民党議員が立ち上がって拍手するよう促しました。「中国か北朝鮮のような風景だ。薄気味悪い」という批判がありました。この異様な風景はテレビ、映像に向いており、とにかく視聴者の目に触れればいいという計算でしょう。
真実を突いた暗い話題より、話題になりやすいテーマのほうが露出度を高められるのですね。どんな話題、テーマ、政策がネット社会に合うのかについて、ネットに流れる無限のデータ(メタデータ)を解析しているのでしょう。テレビ、ネット情報、ブログ、2チャンネルなどを24時間、休まず記録し、解析し、傾向をつかむ。それがビジネスになっています。そのあたりまで潜り込んで、解説、解析していかないと、もう政治報道とはいえないのではないですか。
外人記者を雇い民族主義から脱皮を
最後に。各紙とも、政治部には外国人記者も配属すべきです。かれらの目、筆を通して、日本の政治、政界を解剖するのです。新聞も海外発のニュース、外国の識者のコラム・談話はあふれるほど、おカネを払って掲載しているのに、外国人記者そのものを雇用するという発想が出てこないのは不思議ですね。
他の産業、企業では高額の報酬を払っても、有能な経営者、社員を雇っていかないと、国際競争に勝てなくなりました。なぜメディアだけ、ことに新聞が日本人だけの集団にとどまっているのか。情報は国際化しているのに、新聞社の組織はいまだに民族主義に徹しているのはおかしいと、考える新聞経営者の登場を期待します。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2016年9月27日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は首相官邸サイトより)。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。