討論でクリントン圧勝と言うメディアは想像力が無い

渡辺 龍太

今週、アメリカ大統領選に向けて、ヒラリー氏とトランプ氏によるテレビ討論が行われました。その結果を、日本のマスコミを含め、多くの大手メディアがクリントンの圧勝と伝えています。

その理由として、討論の内容が正確だとか、終始笑顔で冷静だったとか、そういう事を挙げています。しかし、そもそもの討論の目的は、『投票する有権者の判断材料を増やす事』なのではないでしょうか。

その観点から考えると、討論の勝敗は討論の内容や見栄え良し悪しではなく、『どちらが、どれだけの有権者を獲得できたか』に尽きるはずです。

すると、アメリカ大手メディアのネット調査などで、トランプ氏の勝利だったと回答した有権者の方が多かった事を無視し、安易にクリントン氏の圧勝と報じているメディアに対し、全くもって弱者の思考に対する想像力が無いように感じました。

(参考:ヒラリーとトランプの討論会で、日本のメディアの偏向報道が目立った

 

さて、以前、私は共和党のトランプ氏の支持者が多い南部のテネシー州の田舎町で、何年か暮らしていました。私はまさに、トランプ氏の支持者層である、あまりお金を持っていない白人たちと寝食を共にするような環境にいたのです。また、今でも交流があり、今回の選挙についての彼らの考えを、1年近く耳にしてきました。

そんな私にとっては、何故トランプ氏が支持され、また、今回の討論を見ても『トランプ優勢』と考える人が多くいるのかが、非常によく理解できる気がするのです。しかし、日本のメディアで彼らのリアルな声の様なものを目にする事はありません。

なので、今回は、私の狭い範囲の人間関係で得られた情報や、そこからの推測も含むと断りを入れた上で、テネシーの田舎町の住人が、どうして、あの討論を見てトランプ氏が優勢と考えたのかを簡単に紹介します。

 

現在、トランプ氏を支持する貧しい層は、所得が減ったり、失業するなどして、生活レベルの悪化していく事に恐怖を感じています。アメリカでは貧しくなれば高額な医療保険が払えず、医療がまともに受けられなくなるので、所得が減る事は、それこそ自分の生死に関わる様な恐怖があるわけです。

そして、そういう貧困に対する恐怖を感じているのは、とにかく一生懸命働いていると自他共に認める『真面目で良い人で、汗をかいて働いている』たちなんです。その中には、ハーバードやスタンフォードの様な一流どころではないものの、地元の大学を苦労して卒業している人も大勢いて、大学の授業料のための借金を抱えている人もいます。

また、田舎であればあるほど車社会なので、車を維持できるお金が稼げなくなれば、もう働く事も出きなくなります。だから、ホームレスになろうと、借金してでも車は維持しなければなりません。

このように、アメリカの田舎には、真面目に勉強や仕事を頑張って生きてきたのに、年々貧しくなっていき、もう医療保険・大学の授業料のための借金・家賃・車代を捻出するのがギリギリになっている人たちがいるのです。そういった人々が求めるリーダーを想像してみてください。今ままの状態が続く事は座して死を待つようなものなので、何であれ、現状を必ず変えてくれる可能性の高い人物を求めるのは当然です。

 

そして、そういう現状を変えたいという声は以前からあり、8年前にはトランプ氏とは真逆の、民主党で失言をしないオバマ大統領が掲げた『CHANGE』に集約されました。しかし、8年間のオバマ政権の政治によって、生活が良くなったどころか、悪くなったと感じている人が大勢いるのです。

『失言の有無』とか『礼儀正しい』とか『庶民的かどうか』という事が、現状の暮らしを変えられるかに関係が無いとオバマ大統領から学んだ人は、劇薬でも良いので、とにかく『本当に現状を変えられる可能性の高い人』がリーダーになるべきだと考えるのは論理的です。

そして、そういう考えを持った人が、ヒラリー氏とトランプ氏の討論会を見て、何を考えるかというと、一般的な日本人や、多くのメディアとは全く違った視点を持っているのです。

 

例えば、討論会で、ヒラリー氏とトランプ氏に、次のようなやりとりがありました。

トランプ氏「私が各州を飛び回る中、あなたは家で準備したんでしょ?」

 

クリントン氏「討論会の準備をしたという批判なら、ええ準備しましたよ。大統領になる準備をね、それはよいことでしょう」

これを、多くのメディアはヒラリー氏の勝利の決め手と大絶賛しました。ですが、トランプの支持者にとっては、このヒラリーの発言を聞いて、ヒラリーに改めて失望した人も多かったはずです。

というのも、討論の準備をしっかりするというのは、『失言をしない』『何を聞かれても笑顔を絶やさない』という事が最重要課題であるというような、ヒラリーが元オバマ政権の国務長官だった事を改めて思い出させる、現状が変化しない事への約束の様な発言に受け取れるからです。

一方、トランプ氏が各州を飛び回っていたというのは、そういうオバマ的な事には価値を持たせず、とにかく、有権者の声を集め、有権者にメッセージを送り続けたというのは、トランプ氏が自分たちと同じ様に『まじめに汗をかいて働いている事』を大切にしていると映ったはずです。

 

他にも、ヒラリー氏がトランプ氏の大胆な減税プランを、『富める者が、さらに富めるようになる政策だ』と批判しました。しかし、現状を変えて欲しい人は、『誰が富もうと構わないから、仕事が増える可能性があるなら、現状を変える新しい事にチャレンジしてくれ!』と見るでしょう。

また、ヒラリー氏が『トランプ氏は納税していないのかもしれない』とか、『6回も会社を倒産させいる』とか、『実家が金持ちだ』と、鬼の首でもとったように攻めていました。ですが、それも、劇薬でも良いから現状を変えて欲しい人にとっては、『自分の暮らしと関係ない事はどうでも良い』とか、『節税意識の無い人には、税金の無駄遣いを止められない』とか、『自分たちと同じように金銭的に苦しい状態を経験したのに、トランプ氏は見事立て直している』など、全く違った見方をしていた事でしょう。

あるいは、安全保障の分野でトランプ氏が、日本はお金を払うか自力で国を守るべきだと発言した事に関しても、自ら銃を持って自分の家を守るべきだと考える南部のアメリカ人にとっては、当然すぎる理論にしか思えなかったでしょう。

 

極め付けは、次のやり取りです。

トランプ氏「30年も政治に関わっているのに雇用問題の解決策をなぜ今考えるのか?」

 

クリントン氏「30年ではないかもしれないけれど私は考えていた。夫もいい仕事をしたし、この討論会が終わった頃には全て私のせいにされそうだわ。これまでのように訳のわからないことを言うといいわ」

これをメディアは、ヒラリー氏は駄々っ子を相手にする様に、見事にトランプ氏を笑いながらあしらって1本取ったと報じました。しかし、今までの政治が心底悪いと思っている人は、むしろ、ヒラリー氏に対して『過去の政治に対して自分に責任が無い様な、訳のわから無い事を、ヘラヘラ笑いながら言ってんじゃないぞ!』と感じるのです。

いずれにせよ、今までトランプ氏はメディアが批判すればするほど、支持率を伸ばして、泡沫候補から現在の位置まで登りつめました。要するに、メディアは一般庶民が何を思うかとう事に対する想像力がないのです。なので、トランプ大統領が誕生する可能性は、メディアが伝えているよりも圧倒的に高いのではないかと思います。というわけで、現状の支持率が拮抗しているなら、ほぼ、トランプ大統領で間違いが無いような気がしています。

 

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※このブログの著者プロフィール

渡辺龍太 ニュースや情報番組などを中心に活動する放送作家

ブログ:http://kaiwaup.com

Twitter: https://twitter.com/wr_ryota

著書:『朝日新聞もう一つの読み方』(日新報道)

(Amazon メディアと社会部門 1位獲得)