米大統領候補・第2回討論会、誹謗中傷は続くよどこまでも

安田 佐和子

debate-657x360

米大統領候補による第2回討論会がミズーリ州セントルイスのワシントン大学で現地時間9日、開催されました。司会者はCNNのアンダーソン・クーパー氏とABCのマーサ・ラダッツ氏です。

共和党のトランプ候補による女性への卑猥な発言が録音されたニュースが全米のヘッドラインを飾ったため、民主党のクリントン候補が優勢かに見えた今回、トランプ候補が矢継ぎ早に攻撃を繰り出す姿が目立ちました。特に7日にはウィキリークスがクリントン候補によるウォールストリートに対し行った講演内容などを含むeメールを公表していたため、使わない手はありません。eメールにはゴールドマン・サックスやゼネラル・エレクトリック向けに行った講演が含まれ、自由貿易に支持を表明し、ブラックベリーなどの端末使用が情報漏洩を引き起こすリスクに言及したとされています。そのほかキーストーンXLパイプラインの建設に賛成、ベンガジ事件にジョークを飛ばすやりとりといった内容を含んでいました。

クリントン陣営の選対本部長のポデスタ氏はウィキリークスが暴露したeメールに対し本物か偽物か調査する時間がないと説明し、クリントン候補は討論会にて映画”リンカーン”で奴隷解放を目指したリンカーン元米大統領の手腕になぞらえました。奴隷制を廃止を規定したアメリカ合衆国憲法修正第13条の可決をめぐり「公と私的な面が必要」と説き、トランプ候補の質問に合わせ政治家は目的のために二面性を持つ場合があるとの考えを示唆した格好です。

トランプ候補は今回、爆弾発言で会場を驚かせました。自身が米大統領に就任した暁には、特別捜査官を指名しクリントン候補をめぐるeメール疑惑を追及すると断言したのです。トランプ候補が米大統領に就任すべきでないとクリントン候補が主張する理由は「自分が収監されてしまうからだろう」とまで言い放つほど。フェイスブックでは、少なくとも前半戦で最も注目された瞬間だったといいます。

観衆がトランプ候補の攻撃に同調する場面がみられたのも、特徴的です。クリントン候補にeメール問題で詰め寄った時、サンダース候補が民主党予備選で不当に扱われた点で追求した折には聴衆から拍手が沸き起こりました。

CNNの世論調査をみてみましょう。クリントン候補が勝利したとの回答が57%で、トランプ候補の34%を上回りました。しかし、トランプ候補の反撃は予想を超えたとも報じています。

cnn
(出所:CNN)

クリントン候補へ支持表明済みのワシントン・ポスト紙も、勝者にクリントン候補を掲げトランプ候補を敗者と報道。確かにディベート中にステージを歩き回る姿は、沈思できない指導者というイメージを与えたことでしょう。

シリア問題をめぐってマイク・ペンス副大統領候補の見解を否定したことも共和党支持者の間で不安を煽った可能性があります。トランプ候補は、ペンス候補とシリア問題について協議しなかったと言及。さらにロシアがシリア軍と空爆を行い続ける間、米軍も軍事力を行使すべきとのペンス候補の見解に真っ向から反対する立場を表明しました。ペンス候補は8日にトランプ候補と共に登場する予定だったウィスコンシン州でのイベントを欠席しており、一部では副大統領候補を辞退するリスクが取り沙汰されています。

保守派メディアのレッド・ステートは、トランプ候補を勝者に掲げます。歴史上で討論会の48時間前に非常に厳しい試練をくぐり抜けたと評価していました。敗者であるクリントン候補の顔に下りたハエは、同氏の匂いを嗅ぎ取ったとまで伝えています。

トランプ候補だけでなく、クリントン候補からも女性への侮蔑発言などトランプ候補をオブラートに包みながら誹謗中傷するシーンが見受けられ、相変わらず政策議論は成立せず。トランプ候補は女性への侮蔑発言に他愛のない「ロッカールームの会話のようなもの」として謝罪すれば、クリントン候補がイスラム教徒などを含む差別発言も含めアメリカ国民に謝罪すべきと主張。またトランプ候補はオバマ米大統領の出生問題を最初に提起したのは2008年のクリントン陣営だと反論し謝罪を要求するなど、醜い限りです。

討論会2時間前には、トランプ候補がクリントン元米大統領に暴行されたと主張する女性などを引き連れ記者会見を行うなど、露骨な泥仕合いぶりだったんですよ。討論会の開始、終了に合わせて両者が握手を控えたのも、むべなるかな。

エネルギー政策や医療保険が議論に浮上した際は、確かにそれぞれの主張を展開しました。個人的には、連邦最高判事の問題が上がった一方で、クリントン候補がオバマ米大統領に指名されたメリック・ガーランド候補に触れなかった点です。ガーランド候補の支持率がさほど高くない事情を考慮したのでしょう。

討論会後にツイッターを拾っていくと、今回の討論会で勝者はいないばかりでなく、アメリカ市民という敗者が存在するのみとのメッセージが多く見受けられました。筆者も子供のケンカを見せられているかのようで、やり切れなくなってしまったものです。

(カバー写真:C−Span)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年10月10日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。