二重国籍者を積極的に支援する裁量行政の矛盾

北村 隆司
kitamura1016

笑える画像集より

この画像にある様な面白い矛盾には直ぐ気がついても、「私は一度言った事は二度と言わない。もう一度言う。私は一度言った事は二度と言わない」等と言う政治家の矛盾した言葉や、日常茶飯の裁量行政の矛盾は見逃しがちです。

処が、問題が国際化しますと「そうは問屋が卸さない」ことになります。

その典型が、フジモリ元ペルー大統領の日本亡命の時の日本政府の対応でした。

ペルー政府はフジモリ氏を「犯罪人として引き渡すよう」 インターポールに通知する一方、日本政府にも再三身柄の引渡しを要求していましたが、日本政府はこの要求を拒否して来ましたが、外交ルートを通じてペルー政府に伝えた拒否理由は「自国民であるフジモリ氏を、外国に引き渡すことは出来ない」と言う物でしたが、この見解はNYの国連代表部での記者会見でも確認しています。

この見解発表は日本やペルーだけでなく米国でも話題になり、日本の「法解釈の柔軟性」を皮肉る記事も出た程です。

フジモリ氏は果たして国籍法に言う「日本人」だったのでしょうか?

誰もが知る客観的な事実を見ますと:

  • ペルー国籍を持たない者は大統領に成れないと定めた憲法を持つペルーで、フジモリ氏が10年以上に亘り大統領に在職し、大統領就任式には日本政府も代表を派遣し、ペルー駐在日本大使の信任状奉呈も行なって来た事からも日本政府はフジモリ氏がペルー国籍の保持者である事は間違いありません。
  • 日本国籍を持つペルー移民の両親の下で、生地主義を採用し自動的にペルー国籍を取得するペルーで生まれたフジモリ氏は、リマの日本公使館に出生届を提出しして二重国籍者となッた事も客観的な事実です。
  • フジモリ氏が大統領に就任した際、日本との二重国籍を批判されましたが、同氏は二重国籍を強く否定しています。政府がフジモリ氏の主張を信用すれば、フジモリ氏は日本人ではない事になり、記録を信用すれば二重国籍者になります。

(ペルー憲法は政治家の中でも大統領だけは二重国籍を禁じていると言う報道もありましたが、確認はしておりません。)

これらの事実からも、フジモリ氏は「日本国籍を持たないペルー人」か「日本とペルーの二重国籍者」のどちらかで、日本政府の公式見解は、フジモリ氏にとっても日本政府にとっても「前門の虎、後門の狼」と「あちらをたてれば。こちらがたたず」が一度に襲って来た様な矛盾を招く事になりました。

日本政府としては、1996年に起きたテロリストによる駐ペルー日本大使公邸占拠事件で、特殊部隊を大使館に突入させて日本人人質全員を救出して呉れたフジモリ氏への恩義もあり、身柄引き渡し要求に応じられなかった事情もあったのでしょう。

然し、「日本人の身柄を外国に引き渡す事は出来ない」と言う日本政府の立場は、二重国籍者を積極的に保護した事になり、少なくとも国籍法の主旨に沿わなかった事は間違いありません。

この政府見解に対して「二重国籍を認めない日本の方針に反している」と言う批判が起りましたが、政府はこの批判には回答していません。

この問題の原因はフジモリ氏が日本の国籍法第十六条   の「(日本国籍)選択の宣言をした日本国民は、外国の国籍の離脱に努めなければならない。」と定めた「努力目標」を怠たり引き続きペルー国籍を維持した事と、フジモリ氏が大統領に就任した時に、第十六条  2 で定めた「(日本国籍)選択の宣言をした日本国民で外国の国籍を失つていないものが自己の志望によりその外国の公務員の職に就任した場合において、その者に対し日本の国籍の喪失の宣告をすることができる。」と規定して日本政府に課した信任義務(Fiduciary duty)を政府が怠った事にあり、これは、東芝の不正会計事件での取締役の信任義務不履行以上の義務違反に当たります。

その他にも、法務省がヴィクトル・アリトミ・シントウ日本駐在ペルー大使の日本国籍保有を認めた際も、ペルー政府は激しい怒りの声明を発表して日本政府に抗議するなど同じ様な問題が繰り返されました。

更に興味ある事は、自分の意志でチリに渡り、チリで自宅軟禁されていたフジモリ氏に、国民新党から参院選立候補を要請されると「日本に恩返しする貴重な機会を与えていただいた」とする声明を出して参院選立候補を正式に表明し、国民新党の亀井静香代表代行(当時)もフジモリ元ペルー大統領を参院選比例区の公認候補として擁立することを正式に発表した際に「日本国民の権利行使のため、日本政府が外交的対応をするのは当たり前だ。日本国民を保護するために国家は存在している」と述べ、国籍問題が外交問題になっている事を無視して、チリ政府にフジモリ氏の出国を認める働きかけをするよう外務省に求める考えを示したこともあります。

これだけ二重国籍の政治家を保護した前科があるだけに、政府が蓮舫氏の日本国籍問題で沈黙を守り続けるのも良く理解できます。

又、フジモリ氏の身柄引き渡し拒否問題や参院選出馬に対しては、保守派を中心に歓迎する意見はあっても、批判したメデイアがなかった(筆者の記憶)事は、蓮舫国籍論議とは際立った対照を示した興味深い現象です。

前回の投稿でも指摘しました様に、日本の国籍法が機能しない事ははっきりしていますが、次回は国籍法を抜本改正しなくとも、国民感情に沿って「二重国籍問題の再発を防止出来る妙案  “市民権と国籍は別物」と言う概念について触れて見たいと思います。

注:

フジモリ氏の亡命前夜の面白いエピソードが、笹川陽平ブログ「フジモリ大統領亡命秘話」その1
http://blog.canpan.info/sasakawa/archive/1704

「フジモリ大統領亡命秘話」その2
http://blog.canpan.info/sasakawa/archive/1705

に載っていますので、参考までにご一読下さい