慰安婦問題を現代の価値観で裁くのはナンセンス

2016年10月19日 19:10

前から橋下徹氏が何回もツイートする話だが、本気で誤解しているようなので、ちゃんと説明しておこう。


次の首相とも目される稲田朋美氏と並び称せられるのは名誉なことだが、少なくとも私は橋下氏が慰安婦問題で失言した2013年6月の後も「ダンマリ」を決め込んだことはない。たとえば2014年9月の「朝まで生テレビ」に出演して、同じことを発言している。

しかし当初から私は「慰安婦は必要だった」とか「米軍の性処理にも使うべきだ」などと言ったことはない。たとえば2013年6月の記事には「慰安婦が必要だったという発言は、日本軍の行為を肯定するような誤解をまねく」と書いている。

これは慰安婦が強制連行ではなかったという事実認識とは別の問題である。この歴史的事実にはもう争いはないが、それを正当化するかどうかは別の問題だ。歴史学では、「慰安婦は女性の人権侵害だ」というような非歴史的な価値判断はすべきではないとされている。そんなことをいったら戦争そのものがとんでもない人権侵害で、慰安婦なんか大した問題ではない。

逆に「慰安婦は性欲の処理に必要だったから悪くない」というのも非歴史的な価値判断だ。私は現代の先進国では売春は合法化してもいいと思うが、戦時中の売春を肯定することはできない。吉原の娼婦は、10年の年季が明ける前に死ぬことが多かったという。戦地の慰安所は吉原より軍の衛生管理が徹底していたようだが、それでも性病のリスクは大きかった。

もう一つの問題は、当時の売春は人身売買と結びついていたことだ。年季奉公は西洋の奴隷制とは違うが、娼婦の身体を拘束する点は同じだ。戦前には売春は合法だったが、人身売買は民法で禁じていた。多くの慰安婦は人身売買で売られたので、価値判断を抜きにしても違法だった。

いずれにせよ、戦時中の慰安婦に現代の価値観を遡及適用して裁くのは(肯定にせよ否定にせよ)ナンセンスだ。慰安所の運営には政府が関与したが、強制連行はなかった。この事実を確認することがすべてで、そこに「女性の人権」や「日本軍の正当性」などの価値判断をまぎれこませるべきではない。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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