【映画評】われらが背きし者

2016年10月23日 06:00
われらが背きし者 (岩波現代文庫)

イギリス人の大学教授ペリーとその妻ゲイルは、休暇で訪れたモロッコで、偶然知り合ったロシアンマフィアのディマから、組織のマネーロンダリング情報が入ったUSBをMI6(イギリス秘密情報部)に渡して欲しいと懇願される。ペリーは当惑するが、ディマとその家族の命が狙われていると知ってやむを得ず引き受けることに。だが、その日を境にペリーは世界を股に掛けた危険な亡命劇に巻き込まれてゆく…。

平凡な大学教授とその妻が、マフィアの依頼を引き受けたことで危険な運命に巻き込まれるサスペンス「われらが背きし者」。原作は「裏切りのサーカス」など多くの作品が映画化されている作家ジョン・ル・カレの小説だ。ジョン・ル・カレといえば、英国の秘密情報部MI5とMI6出身ということで、本格スパイ小説が多いのだが、本作はMI6は登場するものの、むしろヒッチコックばりの“巻き込まれ型サスペンス”という方が的確だろう。映画序盤からショッキングな殺人シーンがあり、ただならぬ気配を醸し出しながら、パナマ文書を彷彿とさせる国家的大事件へと発展していく。とはいえ、そもそも筋金入りのロシアンマフィアが、英国の政治家も関与する不正の情報という超重要機密を、見ず知らずの人間に託すだろうか?という根源的な疑問も。それでも、ごく普通の民間人が、国家的な陰謀劇に精一杯の勇気で立ち向かう様は、観客にスリリングな冒険をより身近に疑似体験させてくれる。

ディマとその家族、そして告発の行方がどうなるかは映画を見て確かめてほしい。ダミアン・ルイス演じるMI6の工作員ヘクターは敵か味方か判別しにくく、共感しにくいキャラクターなのだが、彼が上司や政治家とのあつれきの中で行動し、時に無謀な作戦に出たり、挫折感を味わう様は、綺麗ごとだけではすまないスパイ組織の実情を知るジョン・ル・カレらしい設定だ。原題は“裏切者の同胞”の意味。出演者は主演のユアン・マクレガーをはじめ、実力派が揃う。地味だがいぶし銀のようなスパイ・エンタテインメントである。
【65点】
(原題「OUR KIND OF TRAITOR」)
(英・仏/スザンナ・ホワイト監督/ユアン・マクレガー、ステラン・スカルスガルド、ダミアン・ルイス、他)
(巻き込まれ度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年10月22日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookより引用)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。

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