11月14日に発表された日本の2016年7~9月期の国内総生産(GDP)一次速報値は実質で前期比0.5%増、年率換算では2.2%増となった。輸出の伸びがけん引した格好となり事前予想も上回り、プラスは3四半期連続となった。これを見る限りにおいて日本の景気はしっかりしている。
これに対して足元の物価は、指標となっている消費者物価指数(除く生鮮食料品)は前年比でマイナスが続いている。これでは、日銀の大胆な金融政策が物価上昇に働きかけて、それにより景気が回復しているとの説明には無理があろう。日本だけではなく欧米の景気もしっかりしている。これについて、日米欧の大胆な金融緩和の効果によるものとの説明は無理がある。低金利による効果がまったくなかったとは言えないが、それはあくまで時間を稼ぐ手段であり、そのほかの要因を見る必要があろう。
2012年11月あたりからの東京市場での急激な円安株高とそれを受けての景気の回復、物価の一時的な上昇は「アベノミクス」と呼ばれた。その大きな要因として日銀の大胆な金融緩和が挙げられている。しかし、その後の特に物価の推移を見てもわかるように、日銀の金融政策が直接寄与したとの見方には無理がある。
リーマン・ショックと呼ばれた米国の金融市場を揺るがした出来事から、ギリシャの財政不安をきっかけとした欧州の信用不安とユーロというシステムの危機は、その波乱の中心となっていた金融市場を沈静化することによって収まってきた。それに関しては日米欧の中央銀行による非伝統的な金融緩和が鎮静剤として功を奏したことは確かである。そしてアベノミクスについてもリフレ政策宣言がマーケットを震撼させるきっかけとなったことも確かであるが、あくまでそれまでの急激な円高株安の反動によるものとの説明のほうが素直であろう。
そこに消費増税前の駆け込み需要、便乗値上げなども絡んで、円安効果とともに物価上昇に寄与したが、金融緩和そのものの直接効果があったわけではない。あったとしても市場に対してのアナウンスメント効果に過ぎない。だから日銀の異次元効果に対する分析も外為市場、株式市場、債券市場を通じた分析とならざるを得なかった。個人や企業に直接影響を与えたものとは言いづらい。
そして今回のトランプ相場であるが、これによる金融市場への影響の結果としては、欧米の長期金利の上昇、株式市場の上昇、そしてドル高といったかたちで現れた。ただこれは、その流れを加速させたきっかけと認識された面がある。
今年に入っての中国などの新興国経済の悪化懸念とそれによる原油価格の下落が、日米欧の金融市場でリスクオフの動きを加速させた。その後、今度は英国のEU離脱というショックが襲った。しかし、いずれもリーマン・ショックやギリシャ・ショックのような深刻な事態に陥ることはなかった。新興国経済も何とか持ち直す動きを見せている。これについては日経新聞電子版の記事が、CRB工業原材料価格指数の上昇による新興国経済の持ち直しを指摘している。CRB工業原材料価格指数の上昇が米長期金利の背景のひとつとなっている可能性がある。
原油先物については、WTIが節目とされた50ドル台を一時回復するなど、こちらも持ち直してきていた。ここにきてOPECの減産合意への不透明感から下落しているが、それでも40ドル台にあり、一時の30ドル割れからは回復している。
つまり百年に一度とされたショックからやっと解放され、それがアベノミクスを生んだ。その後も小規模なショックはあったが、世界の景気は底堅いものとなり、日米欧の異常ともされた金融政策には限界が意識されるとともに、変化も生じてきた。そんななかにあってのトランプ氏の登場は、金利を抑制するという懸念より、今後の金利上昇を見据えた期待感も強まったなかに出てきたものとも言える。アベノミクスは流れの変化時にそれを加速させた。トランプ氏の登場は、その政策の善し悪しはさておいて、異常な低金利時代の終わりを告げるようなきっかけとなることを予感させるのである。
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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年11月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。