【映画評】聖の青春

2016年11月21日 06:00
聖の青春 (講談社文庫)

幼い頃より腎臓の難病・ネフローゼを患う村山聖(さとし)は、入退院を繰り返す中で、父親に何気なく勧められた将棋に魅了される。やがてプロ棋士を目指すようになり、森信雄に弟子入りした聖は、めきめき上達し、師匠に支えられながら将棋に打ち込んでいった。名人になる夢をかなえるために上京し、荒れた生活を送りながらも、将棋に全力を注いでいたある日、同年代の天才・羽生善治が前人未到のタイトル五冠を達成し、名人を獲得する。聖は強烈に羽生を意識するようになるが、聖の身体はガンに蝕まれ、残された時間はわずかになっていた…。

29歳の若さで急逝した天才棋士・村山聖(むらやまさとし)の短くも壮絶な人生を描く「聖の青春」。現在も現役で活躍する天才・羽生善治と互角に渡り合った村山聖という人物をこの映画で初めて知った。そして、この聖が難病・ネフローゼを抱えながら、全力で駆け抜けた短い人生に圧倒された。勝負にすべてを賭けたその生き様は、一片の後悔もない。東の天才・羽生に対し、西の怪童・村山と呼ばれたというから、聖の実力は相当なものだ。正統派で緻密、端正なイメージの羽生の将棋に対し、聖のそれは、凡人には到底思いつかないような奇抜な手で相手を手玉にとる鬼才という印象である。だが、まったく対照的でありながら、将棋と勝負に対する姿勢は二人とも同じなのだ。「負けたくない」の一言につきるその思いを共有する羽生と聖が、対局するシーンや、酒を飲みながらぎこちない会話を交わす場面は、まるでラブシーンのようである。

病のためむくんだ顔や身体、ボサボサの髪といった外見を、体重を増加して役作りした松山ケンイチの入魂の演技もすごいが、もはや羽生善治にしか見えないと思えるほど、外見や仕草、話し方まで入念に作り上げた東出昌大のなりきりぶりもまたスゴイ。不器用でピュアな勝負師・村山聖。命を削りながらの聖の将棋には、たとえ将棋のことを知らなくても、究極の迫力を感じる。夭折が惜しまれるが、限られた生の時間だからこそ見えた景色が確かにあったはずだ。難病ものだが、ベタなお涙頂戴に走らず、勝負の世界の厳しさと清々しさが残る作品に仕上がっている。
【70点】
(原題「聖の青春」)
(日本/森義隆監督/松山ケンイチ、東出昌大、染谷将太、他)
(なりきり度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年11月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。

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