デジタル教科書で統合教育を

科学技術振興機構(JST)のスウェーデン版を、スウェーデンイノベーションシステム庁(VINNOVA)という。VINNOVAが助成した「A digital school for all(すべての子供にデジタルスクールを)」が進展したと、受託者のFunkaが発表した

主要部分だけ翻訳すると次の通りである。「障害児の学習条件を改善する、アクセシビリティを確保した学習プラットフォームのプロトタイプを開発した。」「公立学校で障害児に統合教育を施すことはスカンジナビアでは普通のことである。」「実証実験は実証校から高い評価を得たが、それは、この分野でのビジネスを考える企業にもよい影響を与えている。」「フィンランドでも大学・企業と連携して同様のプロジェクトを進めている。」「教育は、誰もが労働市場に、そして、社会全体に参加するために重要な要素であり、Funkaは研究開発を継続する。」

デジタル教科書の利点はメディア変換の容易さである。テキストを音声に変えたり、他の言語に翻訳できたりする。それを利用すれば、他の児童が教科書を黙読して理解する間に、難読症の子供は音声でそれを理解することが可能になる。外国語しかわからない児童も、普通クラスで一緒に学ぶことができる。デジタル教科書は統合教育への道なのである。

デジタル教科書のこのような利点は、文部科学省が組織した「「デジタル教科書」の位置付けに関する検討会議」でも繰り返し議論され、「最終まとめ(案)」でもページが割かれている。それでも7ページに書かれているように、「紙の教科書を基本にしながら、デジタル教科書を併用することとし、紙の教科書により、基礎的・基本的な教育内容の履修を確実に担保した上で、部分的に、デジタル教科書を使用することが適当である。」という結論になっている。

文部科学省の検討会は、デジタル教科書の障害児教育に対する効果については言及しても、統合教育の推進にまでは踏み込んでいない。スウェーデンの取り組みとの差はここに原因がある。

VINNOVAは、社会問題の解決に科学技術を応用しようという姿勢が強い組織である。このたび、JSTはVINNOVAと「高齢者のための地域共同体の設計やサービスに関する革新的な対応策」に関する共同研究を推進することになり、採択プロジェクトが報道発表された。高齢社会対応で世界最先進のスウェーデンと協力し産学連携でプロジェクトを進めることは、わが国では初めての試みである。僕も日本側アドバイザーとして採否の決定プロセスに参加したが、社会問題を強く意識するVINNOVAの姿勢には学ぶべきものがあると感じた。