きのうの記事はちょっとむずかしいようなので、よい子むけに解説しましょう。この記事はインフレ税と書いているのに、コメント欄では「消費増税は一般の個人消費を冷え込ませる」などと批判している人がいます。彼は消費税は負担になるが、インフレは負担にならないと思っているようだけど、これはまちがいです。
具体的にみてみましょう:あなたが100万円の貯金をもっているとします。消費税が8%かかると100円の商品は108円になるので、貯金を全部つかって買えるもの価値は
100万円÷1.08=93万円
になります。これに対してインフレで8%物価が上がると、同じく貯金の価値は93万円になります。物価が上がる前は100万円で100個買えた商品が93個しか買えなくなるので、インフレ分の7万円は税金と同じです。消費税は消費したときだけ取られますが、インフレ税はすべての国民に一律にかかります。
インフレ税はどうやって取るんでしょうか? 3年前には、日銀の黒田総裁は「インフレにする手段はいくらでもある」といっていましたが、量的緩和をしてもマイナス金利にしても、インフレは起こらなかった。金利がゼロ(あるいはマイナス)になって、人々がそれ以上お金を借りないからです。
日銀はインフレにすることができないが、政府はできます。財政赤字がふえると、国債の金利が上がって金利の支払いがふえるからです。いま国債は900兆円ぐらい発行されているので、金利が2%になったら、18兆円も利払いが増えます。財政赤字はさらにふえるので国債が売られ、金利が上がってインフレになります。
財政赤字で、物価も上がります。財政赤字は何兆円も超過需要を生み出すので、需要と供給の法則で物価は上がるのです。消費税を負担するのは消費者だけですが、インフレ税は貯金にもかかる資産課税なので、幅広く効率的に取れます。
ではインフレ税の「税収」はどこに入るんでしょうか? インフレで最大のメリットを受けるのは政府です。実質的に(何もいわないで)借金を踏み倒せるからです。いま日本政府の借金は1100兆円ぐらいありますが、金利はゼロだから、物価が8%上がると
1100兆円÷1.08=1010兆円
つまり借金が100兆円ぐらいへります。もう一つのメリットは、年金が目減りすることです。年間100万円もらっている年金の価値は、貯金と同じように93万円になります。この他にも政府のはらうお金は名目(額面の金額)で決まっていることが多いので、インフレで財政は楽になります。
もちろんこれは実質的な増税ですから、政府がこっそりやるのはよくありません。でも「インフレ税」と書いてもほとんどの人には意味がわからないので、これはチャンスです。年金をちょっとカットしただけで野党が大騒ぎしますが、インフレには反対できません。年金の数%カットに抵抗する老人も、インフレには抵抗できない。
財政赤字がふえて投資家が政府を信用しなくなると、金利は上がり続け、ハイパーインフレになる可能性もありますが、このまま赤字財政を続けていると、いずれ金利が上がってインフレが起こります。それなら政府がコントロールして、インフレ税を取ったほうがいいのではないでしょうか。
日本経済は、一時的には「焼け野原」になるかもしれないが、戦争みたいに人が死ぬわけではありません。貯金をもっていないよい子のみなさんも、貧しい人も、インフレで相対的には得します。あとは表現の問題です。
安倍首相が「インフレにする」という必要はありません。「景気が悪いので、2020年までの財政健全化計画は停止し、国土強靱化のために200兆円の国債を発行する」とか何とかいえば、国債は暴落してインフレが起こりますが、国民は喜ぶでしょう。愚かな国民には、彼らにふさわしい税金の取り方があるのです。