あなたが買った名画が盗品だったら?

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GATAGより(編集部)

あなたが街中の店先で売られていた絵画を100万円で買ったとしましょう。実はこの絵画、なかなかの名画で100万円はかなりのお値打ちでした。あなたとしては3倍の300万円出しても欲しいと思っていたくらいです。

買ってから半年後、鈴木さんという人が警察官と一緒にやってきて、「この絵画は3ヶ月前に泥棒に盗まれたものなのです。あなたの支払った100万円を弁償しますから絵画を返して下さい」と言ってきました。さて、あなたは鈴木さんにこの絵画を返さなければならないのでしょうか?

テレビの法律相談番組のようで恐縮です。「返さなくてもいい」という出演者と「返すべきだ」という出演者がいて、最後に顧問弁護士は次のように解説するでしょう。
結論から言えば、絵画を返さなければなりません。

民法には192条に即時取得という規定があり、街中の店先で売られていた絵画を買った相談者は、たとえその絵画が店主の所有物でなかったとしても所有権を得ることができます。

ただし、即時取得という制度には193条という例外規定があります。本件のような「盗品」である場合は、所有者である鈴木さんは2年の間は「自分が盗まれた物だ」と言って取り返すことができるのです。相談者は店先で買っているので、支払った100万円は194条によって弁償しなければなりませんが、絵画は渡さなければなりません。

ということで、テレビ番組だと一件落着となるわけですが、この結論っておかしいと思いませんか?

以前「誰がリスクを負担するか?」というタイトルの時、「より安価なコストで損害発生防止の措置を講じることができた方が、損害発生の責任を負う」というのが大原則だとご説明しました。

本件で、絵画の盗難という損害を防止できたのは鈴木さんかその家族(鈴木サイド)しかいません。鈴木サイドとしては、戸締まりをしっかりとしておくとか家財道具に盗難保険をかけておくことができたはずなのです。

それに対して相談者であるあなたは、街中の店先で売られていたものを普通に買っただけで、何の落ち度もありません。怪しいお兄さんに「ダンナ、いい品がありますぜ」と誘われて買った訳ではありませんし。ましてや、鈴木さんが絵画の盗難にあわないように防止することなど絶対に不可能です。

つまり、本件で「損害発生防止の措置を講じることができた」のは鈴木サイドだけなので、そのリスクは100%鈴木さんが負担するしかないはずです。あなたがリスクを負担するのは、どう考えてもおかしいと思いませんか?

このように考えると、2年間は盗品を取り戻すことができるという193条は経済学的には到底是認できない条文だということになります。リスク分配がメチャクチャなのです。

実は、この規定に関しては、民法学の大御所である我妻栄先生が「不合理だ」と異議を唱えています。ゲルマン法の伝統を受け継いで設けられた規定だけど、あまりにも「取引の安全」を害する不合理な規定であると。

本来であれば、こういう規定はさっさと削除すべきでしょう。おそらく、「削除すべきだ」と主張している現役の民法の専門家もいるのでしょうし(いなかったとしたら大変なことです)、トラブルに発展して誰かが迷惑を被る前に早急に削除するのが役所と国会の役割ではないでしょうか?

 


編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2016年12月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。