編集者が出版のいまを描く時 川崎昌平 著『重版未定』

2017年01月01日 19:55

(年末に本屋に出かけていって、買って帰ってきた本のご紹介。書評というほどのものではありませんが、著者と版元の応援になればと思います。)

著者は川崎昌平氏、タイトルはどこかで聞いたことがあるような『重版未定』というもの。その第1巻。副題は

‐ 弱小出版社で本の編集をしていますの巻 ‐

もともとは同人誌に描かれたものだったというのだが、その後、機会があってWEB連載になり、さらにいろいろとあって河出書房新社からひと月ほど前に刊行。業界の今をリポート、ともいうべきマンガ。

その出版業界はなんといっても目下規模縮小の一途で、歯止めのメドはまったく立たない。腰巻(「帯」ともいう)に書かれた惹句(「アオリ」ともいう)もまったくその線で、

「リアル過ぎて、泣けました。」

である。とはいうものの、悪戦苦闘するキャラクターたちは、見た目には「ゆるい」感じがして、そのリアルさはまろやかな仕上がり。現実はどこまでも徹底的に厳しいが、コマの中のセリフはほろ苦くて、すこし切なくて、「泣けました」というのも決して誇張ではない。

ところで出版業界というと、一方に強烈な理想主義があって、そしてその反対側には冷徹な経営原理があって、登場人物は、みんなその間で悩む。

ともあれ編集長の頭はやはり経営が第一である。

《編集長》
「おい待て、いつ誰が『売れる本』をつくれって言った?
まず『売る本』を用意して、取次に納品することが仕事だろ?」
(第3話 企画会議)

出版社がこんな具合だから取次とのあいだには軋みが絶えない。

《営業・バケツ氏》
「双方動くな!
取次と版元が喧嘩しても、読者は喜ばねえんだよ。
仲良くしても、どうにもならないその日までは・・・仲良くしようぜ」
(第7話 取次)

しかし編集長だって理想は捨てきれない。

《編集長》
「小見出しの出来が、購入の指針になると思うか?
第一だな、小見出しなんて読者を甘やかすだけだぞ・・・
甘やかされて育った読解力のツケを払うのは、結局俺たちだ」

《主人公》
「アレてますね。
なんかあったんですか?」

《編集長》
「ん・・・いや、今年度の決算が・・・ちょっとアレすぎて・・・
思わず酒に逃げた・・・って感じだ、うん」
(第13話 入稿その2)

《編集長》
「1万人のための本ばかり編んでいたら、似たような本だらけになる。
そんな本を編みたいか?
どこにでもあるような本をつくりたいか?
・・・・・・
本のための、本を編め!」
(第15話 辞表)

そしてつねに出版業界の現実と直面している作者はこんな風に言う。

《あとがき》より
いずれにせよ、ちょっとでも本書をきっかけに「出版」や「編集」に興味を持っていただけたら、それに勝る喜びはありません。
誰にも意識されないまま滅びるのが一番寂しいので・・・・・・。

また書物への愛情を、補注の中にさりげなく秘ませる。

《補注》
【 棚 】
この場合は・・・書店の「売り方」や「品揃え」、はたまた生き残るための「戦略」や書籍および出版文化に対する「愛」などを表現する存在としての棚・・・
・・・営業担当者は棚を見るだけで、その書店の真価を見抜くという。
(第6話 客注その2)

以上、まとまった感想を書くつもりが、単なる抜書のメモのようなものになってしまった。これでは応援の後押しにはなりそうもない。その補いにもならないけれども、最後にこの『重版未定』の表紙をご紹介しよう。

表紙といっても、目に触れるカバーのことではなくて、その下側にある、書物にとって本当の表紙のこと。

重版_600

いわゆる「新古本店」でも、カバーのない本には、ほとんど値段がつかない。色刷りのハデハデしいカバーの欠けてしまった本は、見た目には、面白くとも何ともないからだ。今日日の単行本は、カバーを外してしまうと、たいてい幻滅する。あまりの味気なさに、百年の恋だって冷めてしまうほどみすぼらしいものがほとんどだ。

でもこの『重版未定』の表紙は、限られた予算の中で、カバーと同じように慈しんで作られている。わたしにはそう見える。もちろん単色刷りに過ぎないけれども、カバーとは別に作られた楽しい絵柄からは、編集者と著者の真情が、じんわりと伝わってくる。

2017/01/01 若井 朝彦
編集者が出版のいまを描く時 川崎昌平 著『重版未定』

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