昨年の年初の金融市場はリスクオフの動きでスタートした。中国経済の先行き懸念にそれに伴っての原油価格の下落、原油価格の下落による資源国への影響なども意識されて、円高が進むなどリスクオフの動きを強めることとなった。
そして2017年の相場がスタートして、またもや中国市場がおかしな動きを見せている。1月5日の東京市場の引けあと、ドル円があっさりと116円台を割り込んだ。特に国内の材料が見当たらず、何か起きたのかと思われたが、この背景に中国の人民元の急反発があり、それによってドルが下落し、ドル円も116円を割り込んだという図式であった。
人民元は昨年10月にIMFの定める特別引き出し権(SDR)に採用された。このあたりからドルに対して下落傾向が続いていた。ドルそのものも12月のFOMCの利上げ観測もあり、上昇しやすい地合のなか、米大統領選挙におけるトランプ氏の勝利を受けて、さらにドル高圧力が強まった。そのトランプ氏は中国を「為替操作国」に指定すると広言しており、中国政府は為替介入という手段が取りづらくなっていた。
ここに外貨準備の減少も懸念材料となっていた。中国人民銀行が元安の急激な進行を抑えようとドル売り介入を断続的に実施してきた結果、2016年11月末の中国の外貨準備高は3兆516億ドルと14年のピークに比べて1兆ドル近く減少していたのである(日経新聞電子版)。
これは中国の米国債の保有額の減少要因ともなっており、米財務省が発表している米国債国別保有残高によると昨年10月時点で、これまでトップを走っていた中国を抜いて日本がトップに返り咲いていた。
介入を行うと外貨準備が減少するが、外貨準備の減少は元安要因ともなりかねない。このため、中国政府は年が変わってから介入ではない手段を講じてきたようである。それは短期金利の操作で、いわゆる短期金利の高め誘導を行ってきた。
比較的、元を自由売買できる香港短期金融市場で、オフショア人民元の流動性をひっ迫させ、香港銀行間取引金利(HIBOR)の翌日物が前日の16.9%から38.3%へと約1年ぶりの水準に上昇し、午後には100%を超える取引も成立したようである。ちなみに昨年1月にも香港市場で中国国有銀行を通じて、ドル売り元買いの市場介入を行ったことでHIBORが急騰し、翌日物HIBORは12日には60%台に急上昇するという場面もあった。
今回は外国為替市場での大規模な元買いドル売り介入は見送られているようで、中国の国有銀行などが短期市場への資金供給を絞ったための短期金利の急騰とされる(日経電子版の記事より一部引用)。年が変わると年間外貨両替枠が更新されて、中国からの資金流出が加速される恐れも懸念されていたことへの対処でもあったとみられる。
HIBORの上昇をみて、ヘッジファンドなど元を売っていた投機筋などが、コストの増加を嫌気して外為市場では元の買い戻しの動きを強めることとなった。人民元が急反発し、その余波で上昇し続けていたBitcoinが急落するなどした。
ただし、インターバンク市場の流動性ひっ迫は、銀行に深刻な影響を与えかねない。企業や市場などにも影響を与えることで、昨年のような景気減速そのものへの警戒が強まることもありうる。さすがに昨年の二の舞はないと思われるものの、当面の中国人民元の行方も注意する必要がありそうである。
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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年1月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。