社会防衛か?危険人物の人権か?

2017年01月10日 06:00

昨年の相模原市の障害者大量殺害事件の犯人は、犯行以前に措置入院に付されていました。

措置入院というのは、精神衛生法に基づき「自傷他害の怖れのある」人を強制的に入院させる制度です。
実際に措置入院に付されているのは6700人程度で、平均入院期間は8ヶ月くらいです。つまり、極めて稀にしか適用されず、最も多い地域でも10万人に10人程度(最も少ない地域だと10万人に1人程度)です。

ところが、かの犯人は約2週間で退院を許されています。
その後、強制通院すら行われていないのです。

英国では、①犯罪を犯していないが、治療不可能な人格障害を有する潜在的に危険な人々を無期限に拘束すること、②社会内で生活している精神障害者に強制的に服薬させる権限を設けること、③強制的権限の長期にわたる行使 を決定する独立の審判所と、独立の弁護を得る患者の権利とを規定すること、④精神障害者による犯罪の被害者が、当該精神障害者の解放(精神病 院からの退院と刑事施設からの釈放)される時期を知る権利を認めること、⑤治療を受ける人々を監督する精神保健委員会を創設すること、⑥精神障害者に対する治療スタッフと医療の増大を図ること、を内容としていた精神保健法が現実に施行されていました。

あまりにも人権侵害が著しいということから大揉めに揉めた結果、2007年に同法が改正されましたが、①の医療保護入院は改正されませんでした。

ちなみに、英国での医療保護入院者数は約11万人です。英国の人口が日本の半分強であることも斟酌すれば、いかに多くの入院患者がいるか理解できます。10万人につき170人くらいが強制入院させられている計算になります。
(日本では、前述のように多い地域でも10万人に10人程度です)

社会防衛という意識の違いと言ってしまえばそれまでですが、日本の制度のあまりのお粗末さは目を覆うばかりです。

相模原事件では、加害者が大麻を吸っていたという点がメディアで注目されていますが、大麻が原因だとすれば大麻が合法化されているデンマーク等では大量殺戮が繰り返されるはずです。
完全に論点がすり替えられています。

また、被告人が心神喪失の場合、日本の刑法では処罰はされません。
その理由は責任非難ができないからです。
「人を殺してはならない」ということがわかっていながら敢えて殺人行為をした場合に「殺人罪」が成立するのであって、「人を殺してはならない」という規範自体がわかっていない心神喪失者を非難することはできないという立場なのです。

しかし、被害者らや被害者遺族らにとっては損害は全く同じです。
犯人が心神喪失ということで応報感情が少しは緩和されるという意見もありますが、そういうケースは稀だと私は考えます。

裁判で心神喪失で無罪となっても、精神医療に付されます。
しかし、今の医療体制は極めて不十分で、いつの間にか退院した「危険性を秘めた人物」が平然と社会生活を送っているのです。

日本における粗暴犯の数は減少傾向にありますが、だからと言って被害を軽視することはできません。他者を害する危険性を持った人物に対する処遇体制をしっかり構築しない限り、相模原事件の悲劇が再現されないとも限りません。

あの事件の直後は、障害者差別や大麻ばかりが注目されて、精神医療や措置入院に関する議論があまりなされていませんでした。
新聞紙上で精神科医が「現行制度上退院は認めざるをえない。いたずらに拘束すると人権問題だと叩かれる」という趣旨の意見を述べていました。

弁護士会の人権擁護委員会には、「精神病院で不当に拘束されているから助けて欲しい」という手紙がよく寄せられ、委員の弁護士たちが病院訪問をして実態調査をするので、医師の危惧はとても理解できます。

社会防衛の見地から、危険性のある人物をしっかり処遇・隔離する立法措置が必要なのです。

人権は拘束される側だけにあるのではありません。
被害者やその家族たちにも等しくあるのです。
「他者に害されることのない権利」「危険から守られる権利」という観念をもう少し真剣に議論すべきではないでしょうか?

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荘司 雅彦
幻冬舎
2016-05-28

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年1月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。

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