予想通り、潘基文前国連事務総長は次期韓国大統領選に出馬する意向を表明した。韓国の政治空白を可能な限り早急に解決されることを願うが、潘基文氏の大統領出馬にはやはり懸念せざるを得ない。
隣国の大統領選で特定の候補者に懸念を表明することは賢明でないが、潘基文氏にはやはり次期大統領になってほしくないのだ。
潘基文氏が駐オーストリアの韓国大使を務めていた頃から、同氏の言動をフォローしてきたが、当時の大使専属運転手が証言していたように、同氏はワーカホリックといわれるほど勤勉で努力家の外交官だったことは疑いない。そうでなかったならば、国連事務総長まで昇り詰めることはできなかっただろう。
当方は同氏に対し払拭できない懸念を有する。同氏が典型的な日和見外交官だからだ。世論の動きを迅速にキャッチする能力には長けているが、その発言は首尾一貫せず、前言を翻すことも少なくない。
同氏は12日、帰国途上の機内で韓国「中央日報」とのインタビューに応じ、その中で「日本が12・28慰安婦合意に基づき拠出した10億円が少女像撤去と関係があるとしたら、間違っている」とし、10億円を日本側に返金してでも少女像を守るべきだと主張している。日韓合意内容の履行問題より、国内世論の動きに迎合した発言だ。
興味深い点は、同時期、岸田外相と日韓合意を実現した韓国外交部の尹炳世長官(外相)は13日、国会外交統一委員会に出席し、釜山の日本総領事館前に旧日本軍の慰安婦被害者を象徴する少女像が設置されたことについて、「国際社会では外交公館前に施設物や造形物を設置することは国際関係の側面から望ましくないというのが一般的な立場」(韓国・聯合ニュース日本語版)との認識を示していることだ。同長官は日韓合意に反するとは言わなかったが、少女像の設置が望ましくないとはっきりと発言している。日本側から見たら当然だが、韓国の政治家としては、かなり勇気ある発言だ。
一方、国連事務総長を10年間、勤め、国際社会の動向を塾知し、国際センスが豊富といわれている潘基文氏の口からは「少女像を設置するために日本側からの10億円を返金すべきだ」という発言が飛び出したのだ。同氏には外国の公館保護を義務付けたウィーン条約など視野に入っていないのだ。潘基文氏のどこに国際感覚が見られるのか。
最近の実例を挙げる。同氏は2015年9月、中国の北京で開催された「抗日戦争勝利70周年式典」とその軍事パレードに夫婦で参加したことに日本や米国から批判されると、「国連に対して誤解している。国連や国連事務総長が求められているのは中立性ではなく、公平性だ」と弁明しているのだ。それだけではない。同氏は中国国営テレビ放送とのインタビューの中で、「軍事パレードには心を揺さぶられた」と吐露しているのだ。国連の舞台では核拡散防止条約(NPT)や包括的核実験禁止条約(CTBT)で核軍縮が話し合われている。世界の紛争解決の調停役が期待される国連事務総長が中国共産党政権の軍備拡大を称賛したのだ。自己流の公平さを主張し、独裁国家の中国共産党の軍備拡大を称賛する潘基文氏のどこに国際センスがあるのか(「潘基文氏のとんでもない『反論』」2015年9月7日参考)。
潘基文氏はまたやはり反日政治家だ。韓国では反日ではない政治家はいないから、同氏の反日傾向をあえて批判しても意味がないが、隣国の大統領が生っ粋の反日大統領であることは、日本にとって気が重いことだ。北朝鮮の核問題などアジア地域の安保問題を抱えている時、潘基文氏の反日志向は日韓両国間の意思疎通にとって大きな障害となることが予想される。
もう一つどうしても挙げなければならない点がある。同氏が韓国の次期大統領に選出された場合、韓国で米国並みのリベラルな同性婚政策が実施される可能性があるのだ。韓国ソウル西部地裁は昨年5月25日、「憲法や民法では婚姻は男女間を前提としている」として、同性愛者の訴えを退ける決定を下したが、潘基文氏は同性婚の支持者だ。同氏は過去、同性婚には積極的に支持を表明してきた。米連邦最高裁判所が同性婚を合憲と判断した時、同氏は真っ先に歓迎を表明している。
また、同氏は2015年6月、米サンフランシスコ市庁舎で「ハーベイ・ミルク勲章」を受けている。同勲章は米政治家で同性愛者の活動家だった故ハーヴェイ・ミルク氏(1930~78年)の遺族が創設したもので、同性愛者運動に寄与した人物に贈られる賞だ(「潘基文氏の大統領出馬に懸念」2016年6月2日参考)。
隣国の大統領選の特定の候補者への批判となったが、当方は日本と韓国両国が正常化し、両国がアジアの指導国家として国際社会に共に貢献できることを願っている一人だ。それゆえに、潘基文氏の大統領選出は韓国の政情を一層混乱させるのではないかと危惧しているのだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年1月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。