いよいよ来るか、放送IP

民放連デジタル・ネット研究会でFCIニューヨークの渡邊卓哉さんからアメリカ放送局の事情を伺いました。

アメリカ放送局の課題は、CM収入の堅持、ネット配信のマネタイズ、国際展開の3点だそうです。これは日本と同じですね。

全米放送協会NABの今年のキーワードは改めてIP(Internet Protocol)だったそうです。「放送システムのIP化」がいよいよ来る、と。

放送局のIP化は、放送システム(制作・送出)、ネット配信、営業・ビジネス・経営モデル、の各レベルがあるが、いよいよ本丸の放送システムに来たというのです。

放送の伝送にはSDI(Serial Digital Interface)という映像信号フォーマットが使われてきたが、それをまるごとIPに移行させる。放送と配信を一体化するシステムにする。クラウド化する。そういう動きです。

通信の世界が電話からネットへ、交換機からルータへ、回線交換からパケットへと20年でシステムが総替えになろうとしているのと同じです。

中でも米ABCがシステムのIP化、クラウド化を進めているとのことです。移行期には設備投資がかさばるが、その後のコストは格段に下がる。総コストが半減するという見方もあります。ABCが成功すれば各局なだれを打つでしょうか。

放送システムがIPでクラウドにアウトソースされると、放送も配信もVODもソーシャル対応も一体的に扱われる一方、放送局はもはや放送局ではなく、制作・編集のコンテンツ局になる。その覚悟と戦略が問われているということです。

アウトソースせず自らシステムを抱え、ハード・ソフト一致を貫く戦略もあるでしょう。だけどたぶんそれは、専業に任せるハード・ソフト分離よりコストが高く、セキュリティにも不安が残る選択となるでしょう。

もちろんその波は日本にも来ます。これは、20年前の通信・放送融合、10年前のネット融合、5年前のスマートテレビとは比べ物にならない津波。日本の放送局はどう立ち向かうでしょう。

実はこのテーマは日本でも道理のわかった放送人はかなり研究を深めていますし、メーカも本格営業をかける構えです。ぼくが代表を務める「IPDCフォーラム」でもぼちぼち空気が流れています。

通信・放送融合は、番組のネット配信が重要テーマでした。いま当然のように行われていることですが、かつては放送局のビジネスモデルを壊すものとして、議論することさえ敵視されていました。

まして、放送のIP化というのはシステムを塗り替える話。10年前のいわゆる総務省・竹中懇談会でも、「All IP時代の放送」を念頭に議論がなされましたが、テレビ業界から強い反発がありました。ネット展開を進めた業界にとっても、機微に触れる恐ろしい未来だったわけです。

しかしこういうシステム技術の変更は、必然の方向に進むものであり、通信に対するインターネットがそうであったように、動くときは急速です。しばし動向に目を光らせましょう。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2017年1月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。