トランプ米大統領就任式、出演者リストは輝きに欠けて

安田 佐和子

ホワイトハウス yasuda

米大統領就任式と言えば、きらびやかなセレブリティが列席し花を添えることで知られています。

しかしながら、今年は輝きを失ったかのよう。就任式のトリを飾り国歌「星条旗」を熱唱するという、アーティストなら咽喉から手が出るほどの栄誉にジャッキー・エヴァンコが浴します。日本の皆様だけでなく、アメリカ人の間でも知名度がそれほど高くない彼女は弱冠16歳。ソプラノとポップを融合したクロスオーバー歌手として2010年の一芸勝ち抜きショー”アメリカズ・ゴット・タレント”に登場、2位に選出された経歴で知られています。トランプ次期大統領の誕生を決定づけたラストベルトを含む6州、ペンシルベニア州ピッツバーグ出身というのも、トランプ新政権のお眼鏡に適った一因でしょう。ちなみに2013年はビヨンセが口パクで驚愕の渦に巻き込み、2009年にはアレサ・フランクリンが全米を圧倒しました。

19日にリンカーン・メモリアルで開催する”Make America Great Again! Welcome Celebration”のパフォーマーには”Kryptonite”などのプラチナヒットで有名な3ドアーズ・ダウンも名を連ねます。ミシシッピ州出身のバンドで、2012年の共和党全国大会に参加した経歴がありますから、今回もイエスの決断を下しました。カントリー歌手のトビー・キース氏やリー・グリーンウッドそしてザ・フロントメン・オブ・カントリーが出演予定。そのほかユタ州出身者のグループで構成されたザ・ピアノ・ガイズ、インド系アメリカ人のDJがドラムを融合させた演奏で魅せるDJラヴィドラムズが決定しています。

トランプ次期大統領、ツイッターで就任式への期待を煽ります。

inauguration

(出所:Twitter)

就任式当日には常連のザ・モルモン・タバナクル合唱団も登場するものの、360人のメンバーの間で意見が対立し出演を見送るよう嘆願書が提出される一幕もありました。NYタイムズ紙によると、少なくとも反対意見を貫き1人は退団したといいます。

ニューヨークのクリスマス風物詩をラインダンスで飾るグループ、ザ・ロケッツも出演予定。しかし、こちらも一筋縄ではいかずダンサー達それぞれの意思で参加する運びとなり、欠席を希望するダンサーに出演を義務づけないとの結論に達したといいます。

一方で、就任式を含むイベント参加にノーを突きつけたのはサー・エルトン・ジョンをはじめブロードウェイ・ミュージカル”ドリーム・ガールズ”のオリジナル・キャストだったジェニファー・ホリデイ、日本でも知名度の高い音楽プロデューサーのデビッド・フォスターなど。またオペラ歌手でイタリア人のアンドレア・ボッチェリ、イギリス人歌手で”天使の歌声”でかつて一世を風靡したシャルロット・チャーチも辞退しています。ジャンルを超えて活躍するアーティストのモビーは「確定申告書を公開するという条件付き」で応じる構えを見せましたが、結果はご案内の通りです。

それだけではありません。就任式には今は亡き公民権運動の指導者であるマーティン・ルーサー・キング牧師と共に権利獲得に尽力したジョン・ルイス下院議員がトランプ氏を「合法的な大統領(legitimate president)とみなさない」と発言、就任式をボイコットした18名に加わる意思を表明しました。トランプ次期大統領がツイッターで批判したのは言うまでもありません。

米大統領就任式でパフォーマンスしたアーティストに話を戻して、マッシャブルの力を借りて過去を振り返ると以下の通りになります。

●フランクリン・D・ルーズベルト(民主党、1941)
→ミッキー・ルーニー

●ドワイト・D・アイゼンハワー(共和党、1957)
→黒人のコントラルト歌手、マリアン・アンダーソンが「星条旗」を熱唱。

●ジョン・F・ケネディ(民主党、1961)
→前回に続き、マリアン・アンダーソンが就任式に登場したほか、フランク・シナトラが就任式イベントで出演。

●リンドン・B・ジョンソン(民主党、1965)
→米海兵隊バンドとザ・モルモン・タバナクル合唱団がパフォーマンス。

●リチャード・M・ニクソン(共和党、1969)
→海兵隊バンドとザ・モルモン・タバナクル合唱団が再登場。

●リチャード・M・ニクソン(共和党、1973)
→黒人歌手エセル・エニスが”星条旗”を担当。

●ジミー・カーター(民主党、1977)
→アレサ・フランクリンが”ゴッド・ブレス・アメリカ”を歌い上げ、リンダ・ロンスタッドがウィリー・ネルソンの”クレイジー”を歌唱し、米海兵隊バンドも登場。

●ロナルド・W・レーガン(共和党、1981)
→ブロードウェイの女王の呼び声高い白人女優、エセル・マーマンが“ゴッド・ブレス・アメリカ”を担当。

●ロナルド・W・レーガン(共和党、1985)
→黒人ソプラノ歌手、ジェシー・ノーマンが参加。

●ジョージ・H・W・ブッシュ(共和党、1989)
→民主党支持者で知られるユダヤ系歌姫バーバラ・ストライサンドが就任式イベントに登場。

●ビル・クリントン(民主党、1993)
→就任コンサートでボブ・ディランがアコースティック・ギターで“Chimes of Freedom” 、また就任式にはビルの友人だったメゾソプラノ歌手マリリン・ホーンが”Simple Gift”などメドレーを熱唱。

●ビル・クリントン (民主党、 1997)
→ジェシー・ノーマンがレーガン政権時代から10年を経て、再登場。

●ジョージ・W・ブッシュ(共和党、 2001)
→就任式自体は米海兵隊と合唱団で占めたが、就任式イベントではスターが勢揃いしリッキー・マーティンのほかジェシカ・シンプソン、娘の希望もあって98ディグリーズ(メンバーのニック・ラシェイはジェシカ・シンプソンと2002年に結婚、3年後に離婚)が参加。

●ジョージ・W・ブッシュ(共和党、 2005)
→就任式にメゾソプラノ歌手のスーザン・グラハム、同デニス・グレーブス、ブラッドリー・ベネットが登場。

●バラク・H・オバマ(民主党、2009)
→アレサ・フランクリンが闘病を経て1977年以来の再演を果たし、 “My Country ‘とTis of Thee” を熱唱。就任式晩餐会ではビヨンセが”At Last”を担当。

●バラク・ H. オバマ (民主党、 2013)
→ケリー・クラークソンが“My Country‘とTis of Thee”を、ビヨンセが”星条旗”を担当。

こうしてみると、大物ぞろいとはいえ就任式でポップスターが登場したのはジョージ・W・ブッシュ1期目とオバマの2期目以来なのですね。トランプ次期大統領の就任式で登場するパフォーマーンに小粒感が否めなくとも、仕方ありません。何より、トランプ次期大統領はAリストがヒラリー・クリントン候補に何も影響を与えなかったと主張、「私は人々を求めている!」とツイッターで熱弁していたので、どちらかといえば視聴率を問題視するのではないでしょうか。

(カバー写真:angela n./Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2017年1月15日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。