【更新】豊洲移転の中止はコストが大きすぎる

2017年01月17日 06:05


毎日新聞によると、東京都の小池知事は豊洲移転について、こう答えている。

--豊洲には既に6000億円をつぎ込んでいる。築地市場をもう一度活用するとか、あるいは第三の場所の検討は。
(小池)これまで都も、ありとあらゆる方策を考えてきたのだろう。豊洲という場所に決めたことには私自身、もともと疑義がある。サンクコストにならないためにどうすべきか客観的、現実的に考えていくべきだ。

ここで彼女は「サンクコスト」の意味を取り違えているが、これはすでに発生して回収できないコストなので、豊洲の移転費用のほとんどはすでにサンクコストになった。設備に再利用可能なものは少しあるだろうが、特殊な建物なので、再移転費を考えると6000億円と大きく違わないだろう。

だから問題は「サンクコストにならないためにどうすべきか」ではなく、機会費用を考えることだ。ここで豊洲の今後の維持費をA億円、新市場(第三の場所)を建設する機会費用をX億円とする。新市場でも維持費は同じだが豊洲ではリスクプレミアムrがつくとすると、問題は総コストを比較して

6000+(1+r)×A ≧ 6000+X+A  (1)

となるようなXを求めることだ。ここでサンクコスト6000億円は両辺から消えるので、維持費にリスクプレミアムをかけた現在価値は

r×A ≧ X  (2)

つまり豊洲の維持費の現在価値が新市場の建設費より大きいことが、新市場を建設するための必要十分条件だ。新市場の建設費が同じ6000億円だとしても、豊洲のリスクが30%あると0.3×A≧6000だから、

A≧20000

したがって維持費の現在価値が2兆円以上なら建設費を回収できるが、豊洲のリスクが1%だとすると維持費は60兆円以上でないと割にあわない。建設費(サンクコスト)が6000億円でも600億円でも両辺から消えて(2)式は変わらないので、サンクコストは無視して今後のキャッシュフローと機会費用を比較することが大事だ。これは築地を使う場合も同じである。

ここから先は小池知事の政治判断だが、豊洲の年間維持費は約70億円といわれているので、リスクが少なくとも80%(維持費の現在価値が7500億円)ぐらいないと新市場の建設は正当化できないだろう。地下水の汚染が飲料水の環境基準を超えるという程度では、新市場の便益よりコストのほうがはるかに大きい。

追記:これでもわからない人がいるので、築地を使い続ける場合のコストを考えよう。この場合は建設費はかからないが、築地のリスクプレミアムをq、維持費をB億円とすると(1)式は

6000+(1+r)×A ≧ 6000+(1+q)×B

となる。ここでもサンクコスト6000億円は消えるので、単純化してA=Bとすると、

r ≧ q

つまり豊洲のリスクが築地より大きい場合に限って移転中止は正しい。魚が地面に転がしてあって不潔で、木造家屋が多く大火災のリスクのある築地と、豊洲のどっちが安全かが問題だ。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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