<自治体別ランキング>待機児童を解決する気あるのか

昨年、「保育園落ちた日本死ね」で話題になった「待機児童」問題だが、保育園に入れなかった保護者たちが恨むべきは、国ではなく、むしろ待機児童対策を行ってこなかった自治体ではないかと思う。
「自治体に何かを要求しても解決できないから国に」という声をよく聞くが、実際、多くの人にいま抱えている問題を聞くと、むしろ自治体の現場で解決しなければならない問題の方が多かったりする。
しかし一方で、あれだけ話題になった待機児童問題も結局、どの自治体が問題なのか、他自治体と比べて自分の自治体はどうなのか、どうすれば解決できるのか、自分の自治体や首長・議員は口では上手いこと言っているが本当に解決する気があるのか、などについて、あまり踏み込んで追及されるところまではいっていないと感じる。
では実際、基礎自治体レベルで比較した場合、どの自治体に待機児童が多いのか、待機児童を抱える自治体はどれくらい努力して解決しようとしているのか、逆に「待機児童問題を解決する気のない自治体」を明らかにしてみたい。

ワーストは世田谷区・岡山市・那覇市・市川市…

厚労省の調査によると、2016年4月時点の市区町村別待機児童数が、最も多かったのは世田谷区の1,198人だった。次いで、岡山市の729人、那覇市の559人、市川市の514人と、この4市区町村が500人以上の待機児童を抱えている。
以下、江戸川区の397人、板橋区の376人、沖縄市の360人、大分市の350人、高松市の321人、渋谷区の315人、足立区の306人・・・と並ぶ。

図表: 待機児童数50人以上の市区町村別データ一覧

 


※ 拡大データはこちらから

この2016年の厚労省調査では、待機児童が50人以上いるとされている市区町村は116ある。全国の基礎自治体数は約1,800であるから、限られたごく一部の自治体に集中して発生している問題だということが分かる。

図表: 都道府県別待機児童50人以上自治体数

この50以上の待機児童を抱える自治体116を都道府県別に分けると、約1/3に当たる38自治体が東京都に集中している。
2位が沖縄県であることは意外だったが、3位の埼玉県、千葉県の7、12位の神奈川の1を合わせると首都圏の4都県で53と、半数近くをこのエリアだけで抱えていることも分かってくる。
またこの地域に集中しているとはいえ、神奈川の自治体が極めて少ないのももう一つのポイントと言える。
今回議論したいのは、この待機児童問題が発生している都市部やベットタウンの自治体においては、毎年保育園を増設しても間に合わないという状況があり、必ずしも自治体が手を打っていないから問題が大きくなっているわけではない、という現状についてだ。
こうした背景には、単純に「保育にかける」人たちのための福祉施設という考え方からは推計できない、これまでとは異なる保育ニーズが増えていることが影響している。
自治体はこの先、旧来の考えに基づく将来推計やそれに合わせた整備計画では「間に合わない」ということを認識し、対応していかなければならない。その点をあらためて指摘しておきたい。

世田谷区は努力しているか?

50人以上待機児童が発生している116自治体の待機児童数を合わせると、その人数は18,785人にのぼる。
この116自治体の待機児童数の推移を見ると、2013年には15,433人だったものが、2014年に15,439人、2015年に16,886人、そして2016年には18,785人と、ここ数年でより深刻な状況になってきていることも見て取れる。
そして、そのうちの1,198人が世田谷区の待機児童だというと、世田谷区が抱える問題の大きさが認識できる。
ただ、そんな世田谷区でも、データの推移を見ていくと、2013年から2014年の間には225人増となっていたが、2014年から2015年の間は73人 、2015年から2016年の間は16人増と、毎年確実に増えてはいるものの、増え方自体は鈍化していっていることが分かる。
この背景には、世田谷区の努力がある。2013年から2014年の間には定員数を131しか増やせなかったものを、2014年から2015年の間には1,684人増、2015年から2016年の間には1,518人増と毎年、保育園の増園などで、その前年の待機児童数より多く定員数を増やしているのだ。
世田谷区は2013年から2016年までの3年間で3,333人分も定員を増やしており、対象116自治体中8位の規模の対応を行っていることも分かった。
待機児童数を定員数で割った待機児童割合を算出し、前年度との差を見ていくと、「2016-2015」、「2015-2014」はどちらも減少していることが分かる。
また前年度の待機児童数に対する定員数増対応を見ても、2016年、2015年と2年連続で待機児童数以上の増員も行っていることが分かる。このように、各自治体が積極的に対応を行っている状況はデータにも現れている。
ただ、一方で、前年度の待機児童数に対する定員数増対応を順位で見ると、世田谷区は116自治体中93位から77位、71位を推移しており、さらに踏み込んだ対応をしていかないと、本質的な解決までは至らないであろうことも見えてくる。

待機児童数ゼロから急増を許した岡山市

厚労省のデータでは一部データが欠けているため、細かい部分が分からないが、今回の調査で急激に待機児童数が増加し、2016年には729人と、きわめて短期間のうちに全国ワースト2位となってしまったのが岡山市だった。
岡山市の場合、2013年、2014年時点では待機児童数は「ゼロ」だった。それが2015年に134人になると、2016年にはさらに595人増えて729人になっているのだ。
ただ、そんな岡山市も、何も手を打っていないわけではない。
岡山市は、2014年には待機児童ゼロだったにもかかわらず、保育ニーズの高まりを予想してか、2015年までの1年間に保育園の増園などによって2,562人も定員を増やしている。
逆に言えば、こうした対応があったおかげで、2015年の待機児童は「134人ですんだ」と捉えることもできる。ただ問題はその後だ。
岡山市は2015年までに2,562人も増やしたにもかかわらず、翌2016年までに間には192人しか定員数を増やしていないのだ。
データからは、結局これが影響して、待機児童数が全国2位にまで増えてしまったということが見てとれる。

ベットタウン市川市にみる自治体の怠慢

ただ、データだけでは自治体の対応が見えてこない部分もある。そこで、私自身が住んでおり、かつて市議を務めた経験もあることから、千葉県市川市の対応についても紹介しておきたい。
2016年の待機児童数ランキングを見ると、市川市は、世田谷区、岡山市、那覇市に次いで全国ワースト4位の514人だった。まずは、市川市の問題をデータから見ていくことにしよう。
市川市は、2013年から2014年の間は、待機児童を39人減らすことに成功している。
それが2014年から2015年の間には76人増、2015年から2016年の間には141人の増と、毎年、待機児童数が増え続けている。ここが大きなポイントだと言える。
もちろん何も手を打っていないわけではない。2013年から2014年の間に定員数を315増、2014年から2015年の間には592人増、2015年から2016年の間にも568人増と、定員は毎年増やしてきた。
ただ、前年度の待機児童数に対する定員増の割合を見てみると、2014年は93.8で60位、2015年には199.3%対応するも73位、2016年も152.3%しか対応できず60位と、待機児童数が全国ワースト4位であるにもかかわらず、他の地域と比べて、その対応は、決して積極的とは言えないレベルであることが分かる。
市としては「それなりに頑張っている」という認識なのかもしれないが、こんなレベルの対応では待機児童問題が解決できないことは、データを見れば明らかだ。
近隣自治体と比較するのも面白い。
市川市の隣の船橋市でも待機児童数が203人と多く、全国で29位につけている。
ただ船橋市の場合、2013年から2016年の間に定員数を全国9位となる3,206人も増やしており、待機児童数は2015年から422人減らしている。
同じく隣に位置する浦安市も、待機児童は全国80位で79人いるが、前年度待機児童数に対する定員増加割合を見ると、2015年が974.6%、2016年が958.6%と、大々的に定員増を図っていて、状況の悪化に歯止めをかけている。
また流山市を見てみると、待機児童は全国46位の146人いるが、浦安同様、前年度待機児童数に対する定員増加割合を見ると、2014年が675.4%、2015年が932.4%、2016年が746.9%と、やはり積極的に定員増を図っている。
かつて私が全国最年少部長職として務めたこともあるお隣の松戸市にいたっては、前年度待機児童数に対する定員増加割合は、2014年が262.6%、2015年が1,869.0%、2016年が1,489.6%と、積極的に定員増を図ったおかげで、ついに2016年には、待機児童をゼロにすることに成功している。立地条件はほぼ変わらないにもかかわらずだ。
こうして比較をすると、近隣自治体との努力の差などがハッキリと見えてくる。

全て上手く行っても7割しか達成できない計画

市川市の保育園問題については、以前にも書いたことがある(『「声うるさい」で市川市の保育園開園断念。ドイツでは法改正し子どもの声は騒音から除外』)。
ただでさえ保育園不足が顕著であるにもかかわらず、新設の保育園が建設できなかったどころか、前例を作ってしまった上に、今後同様の問題が起こった時の解決策も提示できないままに放置されている。
その上で、2016年の待機児童数が、厚労省のデータで全国ワースト4位だという事実を知ってか、市川市は急遽、6月の議会に「待機児童対策緊急プラン」を提出したのだが、この内容がさらに酷かった。
緊急プランの中では、2016年時点での定員数7,273人を2017年4月までの1年弱で1,200人増やし、平成29年4月時点で8,473名にするとしている。
そもそも1,200人の根拠も怪しく、市川市では、保育計画について2017年度に新たな計画を策定するとしているのだが、ここまで追い込まれれば、私なら緊急にプロジェクトチームを組んで職員の増員などを図るだろう。
その上で、庁内での政策のプライオリティを上げて、前倒しで、エビデンスに基づいた論理的で実行可能な計画を早急に策定して、予算も職員も重点的につけて手を打つだろう。
それが現在の市川市の場合、議会にわざわざ提案する計画にもかかわらず、これまでの状況を考えれば、確実に無理な計画であることが見た瞬間に分かるようなありさまなのだ。
市川市の「待機児童対策緊急対応プラン」では、5つの事業によって1,200人の定員増を行えるとしているのだが、まず、1つ目の策として、新たに「積極的な小規模保育事業所の設置」により4月までに14施設を作り200人の定員増を図るという。
次に、新たに「(仮称)いちかわ保育ルームの設置」により4月までに3施設を作り50人の定員増を行う。
3つ目として、「認可保育園の整備」により4月までに15施設を増園し、定員を800人増やす。
4つ目として、「既存保育園における受け入れの拡大」により150人の定員増を図る。
5つ目として提示された「私立幼稚園における預かり保育の拡大」にいたっては、施設数を3としながら、増加される定員数については明記されないおかしな計画となっている。
私が現役の市川市議会議員であれば、提案された時点で、「こんな明らかにできもしないものを提示すれば計画行政全体を台無しにするから、やめておけ」と言うだろうし、自分が担当部長などの立場で役所の中にいれば、こんなお粗末な計画を出すようなことは、たとえ市長と大喧嘩になったとしても、全力で止めようとするだろう。
そう考えると、おそらく行政職員が反対しても止められない程の圧力で、市長がこのほぼ詐欺的な計画を強引に出させたのだろうと邪推したりもするわけだが、こうしたズサンな案を、実行可能と言うがごとくに、真顔で市民に提示することに対して、大きな憤りを感じる。
実際、半年後の2016年12月、議員が議会で質問すると、この段階で調整しているすべてが上手くいったとしても「7割しか達成できない」と答弁している。
おそらくこちらの見立てでは、この「待機児童対策緊急対応プラン」は、達成期限の2017年4月までには5割も達成できないお粗末な結果に終わるだろう。

国政だけでなく、地方自治に関心を持たないと…

紹介した市川市の例は、「行政の計画がどれくらい実現性があるかなんて、議員たちにも分からないだろうし、まして市民になんて分かりっこない……」という声が聞こえてきそうなほど酷い対応だ。
現市長は、「学校給食の無料化」を選挙公約の柱にあげて当選すると、すぐにこの公約を撤回した。
今年、市川市では市長選挙があるのだが、市長はこのタイミングで「駅を新たに作る」と言って地元にリップサービスをしている。だが、本気で作る気があるのなら、任期の最初から計画的に進め、この時期には一定の形を示す必要があったのではないか。
実際に請願駅という形で駅を作るとなると、最低限必要な乗降客数があるため、駅の新設は隣接地域の商業施設の設置や住宅開発などの駅前開発を同時に行う仕掛けが必要になるわけだが、現状の市川市の場合は、こうしたビジョンなどないままに、近隣住民にだけ「駅を作る」と言って回る、まさに選挙運動になってしまっている。
おそらく選挙が終わった後に、「組合を作ってJR側に請願したものの乗降客数の予測が少なく断られてしまった・・・」などと言うシナリオになっている気がしてならない。いずれにせよ、どう考えても任期末に始めるようなことではないのだ。
ビジョンも計画性もなく、市民が抱える政治課題を解決できないばかりか、最初から解決する気すらない首長や行政の対応は、市民にとって大きな弊害となることをしっかりと理解しなければならない。
昨年、「保育園落ちた日本死ね」というブログが話題となり、流行語となったのは記憶に新しいところだが、その憤りを向ける先は国だけでなく、むしろ皆さんが住む自治体や、さらにそのトップの首長であるケースも多いのではないかと思う。
しかし、そんな首長を選んでしまったのもまた市民だ。当選させてしまってから後悔していても状況は変わらない。市民レベルで、もう少し地方自治にも関心を持たないと、知らない間に住んでいる地域が見るも無残な状況に変わってしまっている、なんてこともあり得るのだ。
今回は、多くの人が関心を持つ地方自治課題である「待機児童」の問題に焦点を当ててみた。
待機児童の積算には色々な方法があり、厚労省のデータでは全てを拾い切れていないため、潜在的にはさらに何倍もの待機児童がいると言われているが、まずは、こうしたデータを元に、自分が住む自治体や近隣の自治体の状況を知ることから始めてみてはいかがだろうか。
市川市例は、ほんの一事例に過ぎないが、こうした問題は、市川市以外にもある。自分自身も含めて、自治体のズサンな対応を的確に指摘できるような市民になっていく必要性を強く感じる。

 

 

高橋亮平
高橋亮平(たかはし・りょうへい)
中央大学特任准教授、NPO法人Rights代表理事、一般社団法人生徒会活動支援協会理事長、千葉市こども若者参画・生徒会活性化アドバイザーなども務める。1976年生まれ。明治大学理工学部卒。26歳で市川市議、34歳で全国最年少自治体部長職として松戸市政策担当官・審議監を務めたほか、全国若手市議会議員の会会長、東京財団研究員等を経て現職。世代間格差問題の是正と持続可能な社会システムへの転換を求め「ワカモノ・マニフェスト」を発表、田原総一朗氏を会長に政策監視NPOであるNPO法人「万年野党」を創設、事務局長を担い「国会議員三ツ星評価」などを発行。AERA「日本を立て直す100人」、米国務省から次世代のリーダーとしてIVプログラムなどに選ばれる。テレビ朝日「朝まで生テレビ!」、BSフジ「プライムニュース」等、メディアにも出演。著書に『世代間格差ってなんだ』、『20歳からの社会科』、『18歳が政治を変える!』他。株式会社政策工房客員研究員、明治大学世代間政策研究所客員研究員も務める。
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