【映画評】天使にショパンの歌声を


1960年代、カナダ・ケベック。とある寄宿学校は、音楽教育に力を入れコンクールで優勝者も出す名門校だったが、修道院による学校運営の見直しと、予算不足との理由で閉鎖の危機に瀕していた。校長のオーギュスティーヌは音楽の力で世論を動かし、何とか学校を存続させようと奔走する。そんな時、彼女の姪のアリスが転校してくる。アリスは家庭環境のせいで心を閉ざし問題ばかり起こしていたが、天性のピアノの才能があった。オーギュスティーヌは何とかアリスに音楽の素晴らしさを教え、心を開かせようとするが…。

音楽の名門校が廃校の危機を音楽の力で乗り切ろうとするヒューマン・ドラマ「天使にショパンの歌声を」。教育も含め、近代化への変革期にあった1960年代のカナダ・ケベックが舞台だ。雪深い場所に立つカトリック系の寄宿学校は、浮世離れした世界だが、祈りや教育の場にも確実に変化が必要とされていて、そこで生きる女性たちも、古い因習や大きな権力に立ち向かうことになる。60年代といえば、世界的にフェミニズム台頭の時代だが、女性の自由、権利、社会進出には、まだまだ大きな困難が立ちふさがっていたのだ。学校では、変わろうと懸命なものたちもいれば、伝統にしがみつくものもいる。だがいつの時代も、未来を担う子供たちは変化に対応しながらしなやかに生きていて、大人たち、本作で言えば、教師である修道女たちに、未来を見据える力をあたえているのだ。

寄宿学校に住む少女たちには帰る家がないものも大勢いる。その悲しみ、それを乗り越える強さを、ピアノ曲や合唱曲で表す演出が、胸にしみた。監督は「天国の青い蝶」などのレア・プール。ハリウッドのご都合主義的映画とは一線を画し、時に苦い現実をつきつける場面も。天才少女役のライサンダー・メナードの素晴らしいピアノ演奏、劇中に登場するショパンをはじめとする名曲の数々が心に残る。
【60点】
(原題「LA PASSION D’AUGUSTINE」)
(カナダ/レア・プール監督/セリーヌ・ボニアー、ライサンダー・メナード、ディアーヌ・ラヴァリー、他)
(女性映画度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年1月16日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式YouTubeより)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。