転勤は少子化の原因ではない --- 牧野 雄一郎

2017年01月24日 06:00

転勤イメージ

なぜいま転勤が問題となっているのか

電通の事件を始めとして働き方の見直しがこれほど盛り上がりを見せているのは面白い時代になったと思う。残業の悪玉論に続いて、最近は「転勤」に対する風当たりが強い。ネットニュースやアゴラでも何件かの記事で転勤問題が話題になり日本的な働き方として今後も意見が続きそうなので雇用という面から意見を述べたい。

私は以前に大企業で勤めており、自身も転勤を経験したし周囲で様々な転勤を見てきた。その見地から言えることは少なくとも今の日本企業に課せられた制約からして「転勤は残業とともに必要な生命線」であるということだ。

転勤は少子化の原因ではない

一部のニュースやブログ記事では「転勤を理由に出産を諦めた、結婚を諦めた」という意見が多いと言われている。同時にこれらの意見の大半は転勤による「単身赴任」を問題視している。単身赴任で(通常は)夫が遠隔地に行き、残された妻が子育てしにくいということだ。あたかも転勤を全面禁止すれば結婚率も出産率も上がるという印象だ。しかし本当にそうだろうか。

最新の国勢調査によれば全国の単身赴任者数は70万人となっており、労働者の約2%と言われている。絶対数としては多いが、実態を見るとその殆どは40歳以上の単身赴任者が7割を占めている。出産世代の25〜39歳の単身赴任者数の合計は9万人となっており、同世代人口の0.5%程度だ。この単身赴任がなくなったとして年間100万人の出生者がどれほど増えるだろうか。

また転勤問題と単身赴任問題も混同されがちではあるが、そもそも転勤がなぜ日本に多いのだろうか。これは残業問題と同じく雇用の変動を最小限に抑える調整弁になっているからだ。

転勤と残業は日本型雇用の生命線

先進国で最も厳しい解雇規制を敷く日本では企業が簡単に人の解雇をすることができない。これまで日本を支えてきた電機を始めとした製造業では世界の需要変化に併せて多くの事業をかかえてきた。ソニーを例に取れば、エレクトロニクス→映画→ゲーム→金融と様々な商品・サービスに軸足を移し成長を保ってきた。さらにはグローバル化する商売のなかで収益を上げる地域も、日本→欧米→アジアと最適地へ事業展開を行ってきた。これらの事業展開にあたり転勤が支えてきた役割は大きい。

事業にはそれぞれのライフサイクルがあり必要な人材を必要な期間に欲しいというのは経営の基本だ。一方で事業立ち上げ時に多く必要となった人材も、あるタイミングで減らす方向に進まなければいけないのも企業がかかえるジレンマである。この仕組みを解雇規制の強い日本で実現するには、最適地で人を採用するのではなく、本社で採用した人を現地に派遣する方が効率良い。この理屈は残業問題も同じである。季節変動のない事業は存在しない。それに併せて人員を増減できるのが理想だが解雇できないので少なめの要員で残業するという理論になる。

政府の一律規制は成長余力を落とす

私も不要な転勤や残業を多く見たし、家族の在り方としてゆがんでいるのは当然だ。それらの是非については減らした方がいいという点で賛成だ。しかし政府が強制的に残業を60時間に抑えるなどの強弁な措置をとればただでさえ市場は人材不足の中、企業側の供給不足が起きて収益を落とす原因になる。

いずれにせよ、残業も、転勤も、雇用調整や減給、降格がしにくい日本にとっては全員で雇用を守っていき、賃金低下を防ぐための「調整弁」なのである。世界標準からすればこれはおかしな現象で社会全体が大きな損失を被っているわけだが、いまの日本では致し方ない。

転勤や残業が大企業ほど多いのも特徴だ。大企業のサラリーマンがそれが苦痛とわかっていても辞めないのは、それを我慢さえすれば高い給与が生涯にわたり保証されるということを知っているからだ。

政府は月の残業時間を強制的に60時間程度に抑制することを検討している。長期的には転勤に対する規制も始まるかもしれない。電通をスケープゴートに使って政府の人気取り政策としては良いかもしれないが、実際問題25年ぶりの高水準となっている求人倍率が企業収益に与えるマイナス影響は大きい。労働力の調整弁となっていた転勤と残業が規制されれば企業はさらに厳しくなる経営環境に置かれ収益低下を免れないだろう。超過残業や転勤規制は硬直化した大企業の労働力をさらに硬直化させ経営危機を迎えたシャープ、東芝の二の舞の企業が増えれば結果的に多くの雇用が失われることになる。

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牧野 雄一郎
原価管理コンサルタント 中小企業診断士 事業再生アドバイザー
アゴラ出版道場一期生

大手精密機器メーカーにて原価管理、調達部門を通じて、コストダウンと事業構造改革に従事。独立後は中小企業の原価管理、事業再生のコンサルタントを行っている。

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