中小企業を残業させるのは「役所」と「大手」だ --- 北見 昌朗

2017年02月07日 06:00
残業 イメージ 写真AC

※写真はイメージです(写真ACより:編集部)

「悪いのは中小企業の経営者」ではない

電通事件も1つの契機となって、長時間残業の撲滅が社会的な課題になっている。

政府は働き方改革の一環として、労働基準法の改正を検討中で、残業時間に上限を設ける方針だ。違反企業をバッサリと処分できるように罰則を設けるようだ。

厚生労働省は、大都市の労働基準監督署に「過重労働撲滅特別対策班」(通称かとく)という専門部署を作り、違法な長時間残業の取り締まりを強化している。違反している大手企業の経営者をどんどん書類送検にして”見せしめの刑”にしている。

このように「残業削減」は、まさに国家的な取り組みになりつつある。この議論の中で、言ってみれば常に「悪者」にされているのは会社だ。「会社性悪説」とばかりに、マスコミは会社を一方的に批判する傾向がある。例えば、こんな論調になっているのではなかろうか?

「会社が利益の追求のために従業員に長時間残業を強いている。しかもサービス残業だ」→「会社の経営者は労働基準法に関する遵法の精神に欠けている」→「労働基準監督署は悪質な会社を取り締まるべきだ」

こうなってくると、会社の経営者はやってられない。ちゃんと日本社会に貢献したいと志して経営しているのに、感情的に批判の的にされたのでは堪ったものではない。そこで私は中小企業の経営者の代弁者として、残業削減問題に関して持論を述べる。

残業の原因を作っているのは「役所」だ

物事には、原因と結果がある。悪い結果があるのならば、その原因を探り当て、合理的で適切な対策を講じなければ問題は直らない。この「残業問題」を論じる場合も、なぜ残業が発生するのかという背景から考えないと対策が出てこない。

「中小企業の残業問題」は、中小企業に仕事を出す側にこそ問題がある。
中小企業は、仕事を、役所からもらったり、大手からもらったりするところが多い。独自の商品を開発して独自の販路を開拓できているのは少数だからだ。

例えば、年度末になったら道路工事だらけになるが、それはなぜだろうか? 役所が年度末になったら予算消化のために発注を増やすからだ。もし役所が発注量を平準化すれば、工事会社はどれだけ助かるかわからない。

実際、役所が決めているルールにはそれ自体が非合理的なものが多い。その代表は、3月15日の確定申告だと思う。日本国中の経理担当者や会計事務所が確定申告のためにどれだけの残業をしているのか考えたことがありますか? そもそも確定申告は、なぜ3月15日でなければいけないのか? 筆者に言わせれば、4月でも、5月でも、6月でも、何なら12月でも良いはずだと考えるが、いかがだろうか?

同じようなことが社会保険料の申告にもある。社会保険料は4・5・6月の給与を平均して計算して、7月10日までに役所に報告する義務がある。これを「標準報酬の決定」という。6月の給与が出ないと計算ができないために、7月頭には業務はピークを迎え、大変な残業になってしまう。筆者に言わせれば、そもそも、なぜ7月10日まででなければいけないのか、その理由が考えられない。

確定申告等は、ほんの一例に過ぎない。このように役所の決めていることは非合理的なことが多い。
法令の改正案を議論するのは、省庁の審議会であるが、その委員は大学教授とか、労組役員とか、官僚とかである。彼等の中で現場の実務に携わっている人はほとんどいない。だから現場泣かせの法令になってしまう。

残業の原因を作っているのは「大手メーカー」だ

日本の製造業は、親会社、子会社、ひ孫の協力会社など重層的な構造になっている。特に筆者の住む愛知県は自動車産業のメッカだから、幾重にも渡っての重層構造である。その取引関係は、昔の主従関係を想像するぐらいに封建的だ。

ひ孫の協力会社になると、取引先に対して口にできるのは「YES」という言葉しかない。口が裂けても「NO」という言葉は言えない。とにかく何を言われても「YES」である。例えば、こんな感じだ。

「増産が決まった。明日から生産を何割も増やしてくれ」

「原産が決まった。明日から生産を何割も減らしてくれ」

このように大手からの要求は理不尽で、しかも際限がない。例えば、こんなことまで言われてしまう。

「決算書をチェックしたが、役員報酬が多いので下げるべきだ。交際費も多すぎる」

「業績が良くないのに従業員に賞与を払ってはいけない」

「4月からの価格改定では、一律に2%カットでお願いしたい」

ここまで言われても、何も言い返せず、ぐっと我慢の子でいなければいけなのだ。
これで、どうやって残業を減らせというのか。

協力工場に求められるのは、ジャストインタイムだ。親会社にとっては在庫削減になる都合の良い仕組みだが、協力工場にとっては、納期遅延したら罰金を取られてしまうので恐怖でしかない。朝早く納品に向かうことになるので、高速道路の某インターチェンジ付近は、朝になると数キロに及ぶ渋滞になる。まさに高速道路の占有常態だ。

ジャストインタイムは、大手メーカーにとっては都合が良いのかもしれないが、社会全体から見ればロスも大きい。

残業の原因を作っているのは「大手小売業」だ

大手小売業の過酷な労働を象徴しているのは、正月営業だと筆者は考えるが、いかがだろうか? そもそも元旦になぜ営業する必要があるのだろうか? 元旦になれば、親戚で集まったり、お墓参りに行くことも多いのではないか? そんな時に出勤させるのは家族破壊だ。

大手のショッピングセンターには、テナントとして中小企業が出店している。その関係は、大手小売業が地主で、テナントの中小企業がさしずめ小作人とでも言った方が実態に合っているだろう。

中小企業は何を言われても「NO」という言葉を口にできない。例えば、こんなことを要求されてでもある。

「年中無休営業にしたので、店を開いて欲しい。営業時刻は毎晩10時までです」

「家賃を2%引き上げるので、お願いします」

「契約期間が満了なので来月で退店して欲しい」

生殺与奪の権限を握られた中小企業は、何を言われても泣くほかないのである。これが日本の現実だ。

雑草は根っこから引き抜け

残業問題を「雑草」に例えればわかりやすい。雑草を駆除したければ、根っこから引き抜かないとダメである。それと同じで残業問題を解決したければ、中小企業に仕事を出している役所と大手企業にメスを入れるべきである。そこまでしなければ、残業問題は解決に向かわない。

北見式賃金研究所 所長 北見昌朗
http://www.tingin.jp/

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