GDP600兆円達成へ向けたイノベーション促進策

 

カジノ法と官民データ活用推進基本法の共通点

昨年末、議員立法で二つの法律が成立した。統合型リゾート(IR)整備推進法(カジノ法)と官民データ活用推進基本法である。二つの法律の共通点はGDP(国内総生産)の押し上げ効果による税収増を狙っている点にある。

カジノ法は法律の目的を定めた第1条に「財政の改善に資するものであることに鑑み」という言葉が入っているのが目を引く。国・地方公共団体・事業者が保有する官民データの活用を推進する官民データ活用推進基本法の第1条(目的)にはそうした言葉は出てこないが、成立に尽力した平井卓也衆議院議員(写真は同じく成立に尽力した左端の福田峰之衆議院議員のHPより、マイクを持っているのが平井議員)は、次のように話す「日経ビッグデータ、2016年11月号)。

「GDP(国内総生産)を500兆円から600兆円へ伸ばす上で、増分の4割である40兆円はFinTechやシェアリングエコノミーなどを含めたデータ活用によって生み出されるだろう」

GDP600兆円は政府が「日本再興戦略2016」で2020年までに達成することをめざした目標だが、官民データ活用推進基本法はデータ活用によってGDPを増やし、税収増を図ろうとするもの。平井議員がFinTechとともにGDPへの貢献を期待するシェアリングエコノミーとは、典型的には個人が保有する遊休資産(スキルのような無形のものも含む)の貸出しを仲介するサービスであり、貸主は遊休資産の活用による収入、借主は所有することなく利用ができるというメリットがある(平成27年版情報通信白書)。必要に応じて(オンデマンドで)遊休資産の貸し借りができることからオンデマンドエコノミーともよばれている。

ユニコーン企業

シェアリングエコノミー時代の騎手とされているのが、ライドシェアのウーバーと民泊のエアービーアンドビーである。ともに非上場企業だが、米国では10億ドル(1150億円)以上の企業価値を持つ非上場企業はユニコーンとよばれている。非上場企業なので、株価時価総額のような企業の価値を測る指標なないが、ベンチャーキャピタルは出資する際にベンチャー企業の市場評価額を知る必要があるために試算している。

米調査会社CBインンサイトは、ベンチャーキャピタルが試算した世界のユニコーンの市場評価額を集計して公表している。当初、ユニコーン(一角獣)のように珍しい存在であることからつけられた名前のようだが現在、全世界で185社存在する。その国別内訳をみると、アメリカ(99社)に続いて、2位中国(42社)、3位インド(8社)とアジア勢が健闘しているが、日本はアジアの中でも韓国(3社)、シンガポール(2社)の後塵を拝し、インドネシアと同じ1社のみ。

日本の1社は、スマホで中古品を売買するフリマ(フリーマーケット)アプリのメルカリ(東京都港区、評価額10億ドル=1150億円)。評価額10億ドル以上の未上場日本企業は他にもあるが、メルカリ1社にとどまっているのはベンチャー企業が対象だからである。現にリストに記載された設立年月日を見ると、2009年設立の1社を除く184社はすべて2010年以降である。

リストは業種も紹介している。それによると第1位電子商取引・市場(36社)、第2位インターネット・ソフトウェア・サービス(27社)、第3位フィンテック(21社)、第4位ヘルスケア(14社)となじみのある業種だが、、第5位オンデマンド、ビッグデータ(いずれも11社)と目新しい業種も登場する。ちなみにユニコーン企業No1のウーバー(ライドシェア、評価額68億ドル(7兆8000億円))は、オンデマンドに分類されている。メルカリは電子商取引・市場に分類されているので、平井議員がGDP押し上げ効果に期待するフィンテックやシェアリングエコノミー関連の日本企業は皆無である。

グーグル、アマゾン、フェイスブック予備軍

こうしたユニコーン企業から将来、国の経済を牽引する企業が生まれることは疑いない。2016年12月末の株価時価総額ランキングベストテンはすべて米企業が占めているが、そのうち半数の5社に上るIT企業をリストアップしたのが下表である。5社中グーグル、アマゾン、フェイスブックの3社は設立20数年未満の企業である。いずれもそれ以前には存在していなかった事業をベンチャー企業として立ち上げ、短期間に日本企業トップのトヨタ自動車の2倍から3倍の時価総額を誇る企業にまで急成長した。

順位 会社名 設立年 株価時価総額
1 アップル 1976年 6176億ドル(71.6兆円)
2 アルファベット 1998年 5391億ドル(62.5兆円)
3 マイクロソフト 1975年 4834億ドル(56.1兆円)
6 アマゾン 1994年 3563億ドル(41.3兆円)
7 フェイスブック 2004年 3316億ドル(38.5兆円)
29 トヨタ自動車 1937年 1780億ドル(20.6兆円)

注:グーグルは2015年から持株会社アルファベットの傘下

10社のうちアップル、グーグル、フェイスブックの3社はシリコンバレー生まれの企業である。ユニコーン企業トップのウーバーや第4位のエアビーアンドビーもそうであるように、世の中を変えるようなベンチャー企業がシリコンバレーから次々と生まれる理由として、起業インフラが整っていることがあげられる。その起業インフラの一つに法制度がある。

ベンチャー企業の資本金:著作権法のフェアユース規定

シリコンバレーの起業インフラ化している法制度の代表例は、米著作権法のフェアユース規定である。フェア(公正)な利用であれば著作権者の許諾なしの利用を認める規定だが、アメリカではベンチャー企業の資本金ともよばれているからである。ベンチャー企業の中でもフェアユースの恩恵を最大限に享受したのはグーグルである(「グーグルを救った『フェアユース』 日本の著作権法にも導入すべきか」参照)。グーグルの創業者もそれを認めていて、英国のキャメロン首相は2010年に著作権法改革を命じた際、グーグルの創業者がフェアユースのない英国で起業するつもりはなかったと語った事実を紹介した。

このため、今世紀に入ってイノベーション促進の観点からフェアユースを導入する国が急増している(「オーストラリア政府 フェアユース規定導入を提案」参照)。日本でも「知的財産推進計画2009」の提案を受けて導入を検討したが、権利者の反対などで骨抜きにされた。その後、「知的財産推進計画2016」および「日本再興戦略2016」での提案を受けて、再び文化庁で検討中である(「フェアユースとイノベーション――「フェアユースは経済を救う デジタル覇権戦争に負けない著作権法」出版にあたり」参照)。今回は議員立法の動きもあるので(「イノベーションと著作権~柔軟な権利制限規定の導入」参照)、GDP600兆円達成のためにも実現に期待したい。

城所 岩生