離婚紛争が泥沼化する典型的なケースは「子の親権争い」と「財産分与」が両横綱と言えるでしょう。
俗に「慰謝料」云々と言われていますが、慰謝料とは「(相手の不貞行為などによって)精神的被害を受けた」方が相手方に請求できる精神的損害の賠償請求に過ぎず、その金額は過去の判例の蓄積によって概ね決まっています。不貞行為があったとして、せいぜい数百万というところです。ですから、慰謝料の金額で揉めるというケースはあまりありません。
また、子供の親権争いは事前に予防することは絶対に不可能です。事前に「離婚の際に、子の親権は夫と定める」と約束しても、そのような約束は無効と判断されるからです。
そこで、最低限、財産分与についてだけでも事前に紛争予防が出来ないかを私なりに考えてみました。
ご存じない方が多いと思いますが、民法には「夫婦財産契約」を定めた規定があるのです(755条、756条)。
フランスなどでは、夫婦の20%くらいが事前に財産契約を結ぶそうですが、日本では滅多にありません。結婚前に契約をして登記をし、その上事後に契約の変更が出来ないという使い勝手の悪さが原因です。
夫婦財産契約という特約のないほとんどの日本の夫婦は、法定財産制の下にあるのです。
法定財産制というのは、夫婦の財産は各自のものであることを原則とします(夫婦別産制の原則)。例外として、生活費等の費用について応分の負担をすることになっているのです(民法760条)。
しかしながら、現実に離婚となると、夫や妻の単独名義になっている財産であっても「婚姻期間中に形成されたものであれば」財産分与の対象となり、これが紛争をややこしくしてしまうのです。
不動産のように存在が明確な場合はまだマシです。価格の相場を調べることは比較的容易ですから。
最も揉めるのは現預金の存否と金額です。
毎月の給料を奥さんに渡してお小遣いを貰っていた夫が、いさ離婚となった時に預金の在り処を知らないケースが多々あります。こっそり遠方の信用金庫にでも預けておけば調べる手がかりはありませんし、現金で持たれていれば「ない」と言われればおしまいです。
「どこかにあるはずだ」「もっとあるはずだ」と言って嘆くのは、数的には圧倒的に夫が多いのですが、時々同じような境遇に陥る妻もいます。一千万や二千万なら旅行かばんで持ち運ぶこともできるので、隠そうと思えばかなりの金額を隠すことができるのです。
そこで私が考えたのは、夫婦財産契約で以下のことだけを約定しておく方法です。
夫と妻は、互いに相手方の名義になっている財産に対する財産分与請求を行わないものとする(事前に放棄する)。
共稼ぎの夫婦であれば、各人の稼ぎは自分の名義でしっかり保管しておいて、生活費をその都度応分に負担するのです。その負担割合はその時々によって異なってくるかもしれません。一方が失業した場合は他方に依存する場合もあるでしょうし、家事労働の割合と反比例して負担することもあるでしょう。
子供の教育費をどう分担するかも、その都度話し合って決めればいいのです。
不本意ながら相手の言うとおりにして「問題先送り」をすると、後で離婚の原因につながりかねません。
多くの夫婦がその都度話し合うことを避けて「先送り」にするからこそ、双方が憎み合って離婚に発展し、離婚に際して財産で揉めるのです。小さな問題をその都度話し合って決めていけば、不満が鬱積することがなくなって関係が円満になる可能性の方が高いと考えます。
また、この方法だと「笑う離婚人」(「笑う相続人」をもじりました)の発生を避けることができます。
夫がたまたま開業医であったり同族企業の社長であったがために、ゴルフ三昧の妻が何千万円もの財産分与をもらう一方、家事育児とパートに日々明け暮れた妻が、夫が中小企業のサラリーマンだったがために財産分与ゼロというケースは世の中にはたくさんあります(拙著「本当にあった法律トラブル」にも書きました)。
固有名義の財産に手出しが出来ないとなれば、こういう不公平も解消されます。そして、自分自身の固有名義の財産は自己責任できっちり管理するのです。不動産は、双方がローンを支払うのなら共有名義にすればいいでしょう(必ずしも半々の持分割合でなくとも構いません)。
働く女性がますます増えるこれからの世の中、夫婦双方が相応の収入を得続けるケースが確実に増えるでしょう。
各自のテリトリーをはっきりさせ、互いにこまめに相談して不満を溜め込まないという意味でも、上記のような夫婦財産契約を結ぶことは有意義だと思うのですが、いかがでしょう?
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年2月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。