ドイツをEUから離脱させる利点

2017年02月12日 15:09

本記事はノーベル経済学賞を受賞したスティグリッツ著「ユーロから始まる世界経済の大崩壊」の読書感想文です。さて、経済統合と政治統合をしてお互いの緊密度を高めて一体化すれば、ヨーロッパの経済成長と平和が訪れる。そんな理想の下に創設されたEUが岐路に立っています。英国の離脱を発端とし2017年に大統領選挙が行われるフランスでも離脱派の候補者が注目を集めました。

そういった流れで最近では「英国が悪いのではない、EUなのだ」(エマニュエル・トッド)や今回取り上げる「ユーロから始まる世界経済の大崩壊」(スティグリッツ)などEUやユーロの未来を悲観する本が多く出版されるようになりました。

私は今まで訪れた国はアラブ首長国連邦(ドバイ、アブダビ)と米国(ワシントンDC)の2か国だけでヨーロッパは行ったことはなくユーロも使ったことも見たこともなく、為替もドル/円チャートしかほぼ見ない毎日です。しかし2017年はフランスやオランダ、ドイツなどEU加盟国の大型選挙の年なので、本書を読んで改めてEUの問題点と解決策を整理します。

(1)価値観の違う国々に同じ政策、同じ通貨はヨーロッパの多様性を阻害する

スティグリッツは欧州中央銀行を例に出して、異なった国に同じ政策を適用することの難しさを指摘しています。具体的には「インフレと闘っている国に適切な政策は、高失業率を懸念している国では完全に不適切な政策となる」と書いています。

私なりにこの点を経済学で説明すると(間違ってたらすいません)、中央銀行の仕事は物価の安定と雇用の創出ですが、ここにEUでインフレを抑えないといけないA国と、高い失業率で苦しんでいるB国があったとします。

通常、A国の中央銀行はインフレを押さえるべく貨幣供給量を減らし金利を上げて金融引き締めを行うことで物価を安定させます。一方、B国の中央銀行は貨幣供給量を増やし金利を下げることによって投資を増やし需要を増加させる金融緩和を行うことによって経済活性化を目指して失業率を低下させようとします。

しかし、EUのようにA国もB国も欧州中央銀行という共通の中央銀行の金融政策に従わなければいけない場合、金融緩和をしたらA国はさらなるインフレで苦しむことになるし、金融引き締めをしたらB国はさらなる失業率の上昇で苦しむという結果を招くことになります。スティグリッツはこの点、「単一通貨と中央銀行の共有は、厄介のもととなりうる」と指摘しています。

(2)緊縮財政で危機当事国の経済を収縮させたトロイカプログラム

本書で言うトロイカプログラムとはIMFと欧州中央銀行、欧州委員会が設計した「歳出削減」と「構造改革」を危機当事国に求めるプログラムのことです。貸与した資金には厳しい条件がつけられ、ポルトガルやアイスランド、ギリシャ、スペイン、キプロスはこのプログラムの下で事実上、援助とひきかえに経済主権の大部分を奪われ、多くの場合、経済は収縮し、借りた資金を返せる可能性もなくなってしまいました。最も大きい理由は危機当事国に緊縮財政を強いたことです。1929年の株価大暴落のとき当時のフーバー大統領は緊縮財政を採用し、株価暴落を世界大恐慌へ発展させました。IMFもアルゼンチンや東アジアで緊縮財政を強いて失敗でした。スティグリッツは緊縮財政政策はすべての場所でつねに収縮効果を発揮してきたと主張しています。

(3)危機当事国ではなくドイツをEUから離脱させる

危機当事国を救うどころか更なる経済悪化に陥らせているEU、ユーロが機能するようにするために6つの構造改革を提唱しています。「銀行同盟と規制」「債務の相互化」「安定化のための共通の枠組み」「真の収斂政策」「ヨーロッパ全体の完全雇用と成長を促す」「ヨーロッパ全体の完全雇用と成長を保証する」です。詳しくは本書を読んで頂きたいが、面白い視点が「ドイツを離脱させる利点」の章です。

ドイツと北部諸国(オランダやフィンランドなど、現在の苦境からすぐに復活しそうな国)が離脱すれば、離脱組と残留組のあいだで為替レートの調整が可能となる。この調整は経常収支の均衡を後押しし、輸入抑制のために国内の景気を悪化させる、という最終手段をせずに済む。為替レートが下落すれば、輸出が増えて輸入が減り、結果として経済成長が刺激される。成長率の上昇は政府に税収増をもたらし、緊縮財政に終止符が打たれる。そして危機勃発以来、ヨーロッパの一部となっていた下向きの悪循環は、成長と繁栄が織りなす好循環に取って代わられる。

つまり、これは何を意味しているかというとドイツや北部諸国といった優秀国が離脱すれば、危機当事国が残ったEUの通貨(ユーロ)は彼らの通貨(ドイツならマルク)に比べてユーロ安になるので、輸入よりも輸出が促進され、結果として経済が潤い危機から脱出できると主張しているのでしょう。確かにそうだと感じた反面、ならもうEU必要ないじゃんとも思ってしまう主張ですが面白い視点でした。

 

※国際収支=経常収支+資本収支。経常収支は貿易・サービス収支、所得収支、経常移転収支からなる。また貿易・サービス収支は貿易収支とサービス収支に分けられ、輸出と輸入の収支が貿易収支である。サービス収支は運輸、観光、金融、通信のようにモノではなく、これらのサービスにかかわる外国からの受け取りのこと。

 

東猴史紘

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