榎並利博氏が執筆した「電子政府から見た土地所有者不明問題 法的課題の解決とマイナンバー」が富士通総研のサイトで公開された。榎並氏には昨年、情報通信政策フォーラム(ICPF)で講演いただいたが、それをさらに掘り下げたのが今回の論文である。
サラリーマンの多くは住宅ローンを組んで不動産を購入するので、不動産登記は当たり前と考えているかもしれない。しかし、実は、不動産の登記は義務ではない。不動産登記法では登記は「当事者の申請」によって動き出すので、申請がなければ放置される。
登記によって所有者がわかっていたとしても、相続の過程で登記を怠れば、誰が所有者かがだんだんにわからなくなる。確かに、買い手がいない地方の不動産に費用をかけて相続登記しようという意欲はわかない。榎並氏は、「明治時代や江戸時代の所有者が記載されている場合」もあるという。
所有権のない不動産は国庫に帰属すると民法239条2項に定められているが、本当に所有者がいないことを確認するには膨大な作業が必要になる。このため、国庫への帰属もなかなか進まない。その結果、森林の間伐や農地の集約が進まない、道路建設といった公共事業が遅れる、というような支障が起きているそうだ。
解決策として榎並氏が提案するのが、不動産登記を義務付け、登記の際にはマイナンバーも登録するように仕組みを変えることである。一方で、戸籍とマイナンバーを連動させる是非について法務省の「戸籍制度に関する研究会」で検討が進んでいる。マイナンバーによって戸籍と不動産登記が連結されれば相続人の特定が容易になる。
榎並氏の提案には説得力がある。マイナンバーというツールを上手に活用していくように政治はリーダシップを発揮し、不動産登記の改革につなげてほしい。