サラ金よりもヤミ金よりも、怖い貸し手

強烈な取り立てについ平身低頭でお金を返したくなる?(写真ACより:編集部)

昨今は取り締まりが厳しくなったことからなりを潜めているようですが、一時期は「ヤミ金」が手広く暗躍していました。出資法違反の高金利を取っていて明らかに犯罪なのですが、債務者の弱みに付け込んで骨までしゃぶり尽くそうとする輩です。

かつて私が破産申立代理人となった自営業のA氏は、10件以上のヤミ金からお金を借りており、精神的に追い詰められて夫婦で心中する寸前でした。常に見張られているように思い込み、私の事務所にいる時が唯一心が休まる時間だと言っていました(とはいえずっと居ていただく訳にはいかなかったのですが…)。

住宅地図を見ながら「お宅のすぐ近くのガソリンスタンドまで来てるんだけど」などと電話で嘘を語って脅すのはヤミ金の常套手段なのです。
ところが、10件以上のヤミ金業者に「受任通知」を送ったところ、全社が直ちに債権放棄をしてきたのです。犯罪行為をやっているので、それ以上の関わり合いを避けるためでしょう。ヤミ金の送付先は全て私書箱でした。

サラ金と言われる消費者金融業者の中には、「受任通知」を受け取ると猛烈な抗議の電話を架けてくるところもありました。「うちは一回も返済してもらってないのですよ!これは詐欺です!警察に告訴します」と。

私が「犯罪行為をもみ消すつもりはありません。告訴するならして下さい」と答えると、「他の弁護士さんは和解金を支払ってくれるのですけどねえ」と揺さぶりをかけてきます。私が「債権者平等原則は絶対に崩しません」と告げると渋々電話を切ってくれるという有様でした(揺さぶりに負けて和解金を支払った弁護士がいたかどうかは、私は知りませんが)。

破産者の財産を処分して債権者たちに配当する破産管財人に裁判所から選任された時のことです。

破産者と執行官と共に破産者の家の前に車で乗りつけた時、破産者のB氏が「周囲の人たちに顔を見られたくないのです」と言って、車から出ようとしませんでした。困った執行官と私は、周りに人がいないことを確かめてB氏を隠すようにして家に入り、封印執行が終わった後もこそこそと逃げるようにして帰ってきました。

約3年後のB氏の最終の債権者集会の日、私は裁判所にたくさんの人が詰めかけてきているのを見てびっくりしました。普通、最終の債権者集会には出席者はおらず、裁判官と書記官と管財人である私が決められた手続をこなして数分で終了していたのです。B氏のケースはそこそこ配当が出せた案件だったので「まさか、文句を言いに来たわけじゃないよなあ〜」と訝りながら手続を開始しました。

出席した債権者は、全員がB氏の近隣住民で「B氏に頼まれて断れずにお金を貸した」とのことでした。
管財人の私をB氏の代理人と思ったのか、「お前がBを隠したのか?」「どこかに財産を隠しているだろう!」などと迫ってきます。

「私は、裁判所から選任された破産管財人で、皆さんに1円でもたくさんの配当をするために努力してきた者です。Bさんの代理人ではありません!」と言って、ようやく騒ぎが収まりました。

破産から3年後くらい経過しても、踏み倒された恨み辛みを忘れない個人債権者たち。

彼ら、彼女らの目が黒いうちは、B氏は二度と故郷に帰ることはできないでしょう。
おそらく、B氏の親族たちも故郷から追われていると思われます。
「ビジネスでやっているサラ金やヤミ金よりも、人情に訴えて借りた個人債権者は決して許してはくれないのだなあ〜」とつくづく思い知った次第でした。

お金の貸し借りは人間関係を壊す原因となります。
頼み込まれて貸すと決めたら「あげたもの」と割り切りましょう。返ってきたらめっけものということで…。


編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年2月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。